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2025年12月

【最新レポート】関税ショックの最大の勝者「メキシコ」の台頭と、サプライチェーンに忍び寄るAI監視リスク | 物流ニュース・物流ラジオ

【最新レポート】関税ショックの最大の勝者「メキシコ」の台頭と、サプライチェーンに忍び寄るAI監視リスク

ヒューストン国際海事会議(HIMC 25)で語られた関税の真実 今回は、関税ショックと、その最大の勝ち組であるメキシコについてお話しします。 先日の2025年11月上旬にヒューストン国際海事会議(HIMC 25)で、関税の影響やアメリカの関税政策が世界のサプライチェーンをどう変えているのか、という非常に興味深い議論が交わされました。 この最新のレポートを、関税のインパクト、メキシコの台頭、専門家の警告という3つのポイントに絞ってお話しします。 1. 関税のインパクト:輸入業者のボディーブロー まず一つ目の関税のインパクトです。 会議では全米小売業協会(NRF)の副会長が、「関税とはアメリカの輸入業者が支払う税金である」という基本的かつ重たい事実を突きつけました。 これは企業にとってボディーブローのように効いており、現場からは関税情報がコロコロ変わり、経営陣の報告も追いつかないという悲鳴が上がっています。 さらに、ある大手家具メーカーは今年の米国市場だけでなんと4億ドル以上の追加コストを予測しており、これは企業努力でなんとかなるレベルを超えています。 もはや東南アジアも「安全地帯」ではない では、工場を移せばいいのではないかと思われますが、これまでのトレンドだった中国からタイやカンボジアなど東南アジアへの移転も、専門家によればもはや安全地帯ではなくなっており、東南アジア製品にも新たな関税リスクが出てきています。 そこで米国政府が推しているのが、**USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)**を使った北米地域での製造です。 2. ニアショアリング最強の勝者「メキシコ」の台頭 ここで二つ目のポイントであるメキシコの台頭が登場します。 今回の会議では、パネリスト全員が口を揃えて「ニアショアリング最強の勝者はメキシコだ」と指摘しました。 実際、アメリカ市場でアクセスを維持するため、中国のメーカー自身がこぞってメキシコに工場を作っているという現象が起きています。 ある専門家は、メキシコの産業の成長の勢いを「雑草のようだ」と表現するほどです。 活発化する投資と越境サプライチェーンのハブ化 具体的な動きとして、世界最大の物流企業キューネ・アンド・ナーゲルは、テキサス州エルパソの国境物流拠点を大幅に拡張しており、前の施設はわずか1年で満杯になったほど物が動いています。 また、インドの自動車部品大手マザーソン・グループがアウディ向けの供給強化のためメキシコの工場に5000万ドルを投資するなど、製造業での投資も活発です。 地理的な近さとUSMCAのメリットにより、メキシコは今や越境サプライチェーンのハブになっているのです。 3. 専門家の警告:AI監視と「新聞に名前を載せないこと」の重要性 そして最後の三つ目、少し怖い話ですが、専門家の警告です。 専門家は、このメキシコシフトに浮かれている場合ではないと警告しています。 アメリカの税関(CBP)も進化しており、AIを使って監査や取引審査を強化しています。 その結果、これまで見逃されていたミスもAIが指摘するようになり、さらに怖いのは執行の可視化、つまり違反が見つかった企業の名前を公表する動きが出ていることです。 専門家は、「今や自社の名前を新聞に載せないようにすることが重要だ」とまで警告しています。 特に、海外サプライヤー任せのDDP契約をしている企業は要注意で、データが適当であれば、深刻な法的なリスクを負うことになると述べています。 今回の内容をまとめると、関税政策がサプライチェーンを根本的に変え、その結果としてメキシコが世界の工場になりつつありますが、そこにはAIによる監視という新たなリスクも潜んでいます。 チャンスとリスクは隣り合わせであり、これからの物流戦略では、メキシコの活用と鉄壁のコンプライアンスという二つのキーワードが重要になると言えるでしょう。 動画視聴はこちらから

物流DXのコスト負担を巡る構造課題:CargoWise新価格モデル「取引ベース課金」が業界に突きつけるもの | 物流ニュース・物流ラジオ

物流DXのコスト負担を巡る構造課題:CargoWise新価格モデル「取引ベース課金」が業界に突きつけるもの

物流業界激震!WiseTech CargoWiseが価格モデルを大転換 世界的に物流のデジタル化(DX化)が進む中、業界に大きな波紋を呼ぶニュースが飛び込んできました。 世界で最も利用されている物流ソフトウェアの一つ、WiseTech Globalが、その主要製品であるCargoWiseの価格モデルを大幅に変更したことです。 この変更は単なる値上げではなく、「物流DXのコストを誰が、どのように負担すべきか」という、業界全体の構造的な課題を突きつけていると捉えられます。 「ユーザー数ベース」から「取引ベース」への転換 WiseTechが導入したのは「バリューパック・コミュニティ・プライシング」と呼ばれる新しい商業モデルです。 従来の「ユーザー数ベース」の課金体系から、「取引の量と種類」に基づいた取引ベースの単一コストへと基準を大きく転換しました。 例えば、輸入コンテナ1個の管理に対し、特定の料金がかかる形式です。 WiseTechのCEOは、これを価格変更ではなく「全く違う商業モデル」と表現しています。 狙いはDX技術投資コストの「民主化」 この狙いは、AI技術を含む高度なサービスをフォワーダーに利用してもらい、その技術投資のコストを、フォワーダーが荷主に費用として転嫁できる仕組みを作ること、すなわちサービスの民主化を進めることにあります。 現場の不安と最大の懸念点 しかし、現場のフォワーダーからはコストが20%から、高い場合は**50%以上も増加する**との試算があり、年末というタイミングでの急な導入も相まって、不安が爆発しています。 フォワーダーにとって最大の懸念は、この追加コストを荷主が受け入れてくれるかどうかです。 競争の激しい市場では、フォワーダーが費用を吸収すれば、確実に利益率が圧迫されることになります。 ITコストが受け入れられにくい構造的理由 なぜ船会社のサーチャージは受け入れられやすいのに、フォワーダーのITコストは受け入れられにくいのでしょうか? 船会社のサーチャージ: 独占的な価格決定力のもと、燃料など外部の変動費として既に認識されている。 フォワーダーのIT費用: 競合の多い環境下で、企業の効率化のための間接的な運営コストと見なされがち。 WiseTechのCEOは、このITコストを「通関手数料と同様に、フォワーダーが顧客に代わって立て替える費用」として請求されるべきだと主張しますが、業界の声は「荷主は低価格での輸送を望み、結局フォワーダーが負担することになる」と反論しています。 物流業界が迫られる選択肢:「新たな商習慣の創出」 フォワーダーのIT化・DX化は、高付加価値サービス提供のために不可避な未来であり、技術コストは増大していきます。 この状況で、物流業界が直面する選択肢は主に3つです。 フォワーダーが吸収し消耗戦を戦う 運賃に包括的に含める(ブラックボックス化) コストを分離・可視化し、新たな商習慣を創る 今回のCargoWiseの価格変更は、まさにこの3番目の「新たな商習慣を創る」という挑戦を物流業界全体に促すものです。 フォワーダーと荷主に求められること フォワーダーには、ITサービスの価値とコストの必要性を荷主に戦略的に説明していく必要があり、荷主にも、要求するデジタル的な利便性には相応の対価が必要であるという認識が求められるタイミングにきています。 動画視聴はこちらから

航路別にみるアジア圏・欧州・北米の最新運賃トレンド | 物流ニュース・物流ラジオ

航路別にみるアジア圏・欧州・北米の最新運賃トレンド

海上輸送の運賃は、需給バランスのわずかな変化でも大きく動きます。 船会社は週ごとの集荷状況を踏まえて運航計画を立てますが、貨物が集まらない週はブランクセーリングとして欠便を出し、あえて運航を止める選択をします。 便が1本消えることで翌週に貨物が集中し、スペースの逼迫が発生しやすくなります。 こうした供給調整は、市況の急落を避けるための基本的な仕組みとして定着しています。 欧州と北米で異なる需給環境 欧州向けは需要の落ち込みが比較的緩やかで、在庫調整も大きく進んでいないため、物流量が安定しやすい環境にあります。 需給のバランスが整っていることから、運賃も大きく崩れていません。 一方の北米は、小売業者が積極的に在庫圧縮を進めた影響で貨物量の回復が鈍く、需要不振の状態が続いています。 単純な市況回復が望みにくいため、アジアや欧州とは明確に異なる運賃トレンドを形成しています。 大型船をアジアに回せない理由 北米航路には1.6万〜2.4万TEU級の超大型船が投入され、大量輸送を前提とした運航が行われています。 しかし、この大型船をアジア向けにそのまま回すことは困難です。 アジア各港は水深や岸壁仕様に制約が多く、大型船が入れないケースが多い ASEAN向けは運賃水準が低く、大型船では採算が取れない 大型船は荷役時間が長く、港湾混雑を招きやすいため効率面でも不利 「余った船をアジアへ」という単純な発想では成り立たない理由が、構造的に存在しています。 航路別の現状 アジア域内:季節的ピークに加えて供給不足が重なり、運賃は上昇基調を維持。 北米向け:需要低迷と新造船投入が重なり、供給過多の状態が続く。 欧州向け:欠便による供給調整が継続され、運賃は堅調に推移。 今後の展望 アジア向けは中国の旧正月前に荷動きが増えるため、スペースの逼迫がさらに進む可能性があります。 欧州向けはスエズ運河の通航状況が最大のテーマで、仮に全面再開が進めば供給力が一気に増え、欧州港湾に混雑が戻るリスクがあります。 ただし、再開によって直ちに運賃が崩れるとは限らず、状況次第では短期的に上振れする可能性も残ります。 北米向けは運賃の下落傾向が続きますが、船会社が追加のブランクセーリングで供給を絞る可能性もあります。 さらに、米国の政治情勢次第では関税政策が変動し、市況の読みづらさが増す展開も考えられます。 まとめ アジア・欧州・北米の三大航路は、それぞれ異なる需給環境にあり、運賃の方向性も分かれています。 季節要因、港湾制約、政治要因が複雑に絡み、今後もしばらく不確実性が続く見通しです。 荷主としては、航路ごとの特性を踏まえた早めの輸送計画づくりが求められます。 動画視聴はこちらから

次世代船開発の標準設計スキームとは | 物流ニュース・物流ラジオ

次世代船開発の標準設計スキームとは

日本の造船業が国際競争力を取り戻すために始動した標準設計スキーム。 今回は、その中心となるMILES(マイルズ)と、海運・造船7社が結集したオールジャパン体制の取り組みについて解説します。 プロジェクトの中核 MILES とは MILES は、海事産業全体の共同デザインセンターとなる組織です。 もともとは三菱重工と今治造船の合弁会社でしたが、今回新たに以下の4社が参加しました。 日本郵船 商船三井 川崎汽船 ジャパンマリンユナイテッド(JMU) 日本シップヤード(NSY) これにより、ユーザー(海運)とメーカー(造船)が一体となった基本設計体制が整備されました。 なぜ今、連携が必要なのか 背景には、日本の造船業が抱える深刻な課題があります。 ・LCO2船、アンモニア燃料船などの設計が複雑化 ・設計項目が膨大で工数が急増 ・国内の設計リソースが不足 個社ごとの分散設計では限界が見え始めていました。 そこで参考にしたのが、中国・SDARIの成功モデルです。 SDARI は設計リソースを一箇所に集約し、共通基本設計で効率化を実現。 MILES もこの方式を取り入れ、競争から協調へと舵を切りました。 7社が担う具体的な役割分担 この新体制では、各社の役割が明確に整理されています。 海運3社:船の仕様・要求性能を提示 MILES:技術を集約し、標準基本設計を一元化 造船4社:標準図面を自社向けに最適化して建造 これにより、これまでにない強固なサプライチェーンが形成されます。 標準設計スキームの開発フロー 開発プロセスは次の3段階に整理されています。 ① 開発・基本設計(MILES) 標準仕様を確定し、標準図面を作成。 ② 機能・生産設計(造船所) 標準図面を自社向けに最適化。 ③ 建造・完成 効率的なプロセスで次世代船を建造。 これにより設計工数を大幅に削減

ロジスティクス強化と2025年度補正予算案のポイント | 物流ニュース・物流ラジオ

ロジスティクス強化と2025年度補正予算案のポイント

政府は11月28日に2025年度の補正予算案を閣議決定し、港湾事業の整備として806億円を計上しました。 この予算ではサイバーポートやAIターミナルの推進を中心に、港湾機能の向上とサプライチェーンの強靭化を図る施策が示されています。 補正予算の主な内訳 補正予算の総額は806億円で、主に次の項目に配分されています。 91億700万円:港湾機能強化、生産性向上、民間投資の誘発6億300万円:港湾ロジスティクスの高度化 これらを支える中心施策としてサイバーポート、AIターミナル、防災・減災投資が位置づけられています。 サイバーポートの推進 サイバーポートは国土交通省が整備する物流DXプラットフォームで、港湾に残る紙、電話、FAXなどのアナログ手続きをデジタル化する取り組みです。 船会社、荷役会社、通関業者、陸送会社、ターミナルなどが個別に行ってきた手続きや情報伝達を一元化し、行政手続きとの連携や業務ミスの削減を図ります。 AIターミナルによる現場支援 AIターミナルでは遠隔操作RTG、AIによるコンテナ配置最適化、ゲート処理自動化などを導入し、労働環境の改善と生産性向上を両立させます。 現場の負担を軽減しつつ処理能力を高める取り組みです。 サプライチェーンの強靭化 京浜港や阪神港などの国際コンテナ戦略港湾を中心に、大型船受け入れ能力や荷役効率の向上を進めます。 バルク貨物の安定供給を確保し、国民生活に関わる物流の安定性を高める狙いがあります。 エネルギー安全保障と洋上風力対応 洋上風力発電の拡大に向けて、風車の組立や積出しを行う基地港湾の整備を加速します。 再エネ普及やエネルギー自給率向上に寄与するため、港湾機能を強化していきます。 防災・減災と港湾の強靭化 大規模災害に備えて耐震強化、防波堤の高度化、老朽化対策などを重点的に実施します。 災害時の迅速な状況把握を可能にする情報収集体制の整備も進められます。 取引環境の改善 港湾運送事業者の健全な経営を支えるため、適正な運賃や料金のあり方について検討が進められます。 まとめ 今回の補正予算ではロジスティクスが国家成長戦略の一部として明確に位置づけられ、DX、防災、エネルギー安全保障の三軸で港湾強化が進められます。 サイバーポートを基盤としたデータ連携の加速により、世界最高水準の港湾を目指す取り組みが続きます。 動画視聴はこちらから