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2026年2月

自動車船の需給はなぜ緩まないのか。輸出入ギャップ拡大が生む構造問題 | 物流ニュース・物流ラジオ

自動車船の需給はなぜ緩まないのか。輸出入ギャップ拡大が生む構造問題

本日は2月3日の海事新聞「自動車船、輸出入ギャップ拡大。需給タイト 継続か」という記事と、1月20日に行われた日本郵船のIR説明会での発表内容をもとに、海運市況の中でも特に自動車船(PCTC)の最新動向について整理していきます。 ここ数年、自動車船のスペース不足、いわゆる「スペース・タイト」の状況が続いていますが、2026年に入った現在も、この問題は簡単には解消しない可能性が高まっています。 動画視聴はこちらから 自動車船市況の現状整理 まず、現在の市況について整理します。 日本郵船の調査グループによる分析では、自動車や建設機械を運ぶ自動車船の需給は、引き続き引き締まった状態が続くと予測されています。 もともと市場では、2024年から2025年にかけて新造船の竣工が相次ぐことで、2026年には需給が緩和し、スペースが取りやすくなると見られていました。 実際に2025年時点では、世界の自動車船の船腹量は約900隻規模まで増加しています。 しかし、実態としては、船の数が増えているにもかかわらず、需給は緩んでいません。 その背景には、単なる船腹量の増減では説明できない、構造的な要因が存在しています。 原因① 輸出入アンバランスの急拡大 最も重要な要因の一つが、アジア地域における輸出入アンバランスの拡大です。 日本郵船の説明によると、従来、日本・韓国・中国といった東アジア地域では、自動車の輸出量は輸入量の3倍から4倍程度でした。 それでも輸出超過ではありましたが、市場としては一定のバランスが保たれていました。 ところが、中国からの自動車輸出が急拡大したことで、2025年にはこの比率が5倍超にまで広がったと見られています。 物流の世界では、片道だけ貨物を積み、復路が空船となる「片荷」は、最も効率の悪い状態です。 輸出が輸入の5倍という状況は、多くの船がアジアへ空船で戻らざるを得ないことを意味します。 その結果、船全体の稼働効率が大きく低下し、名目上の船腹量以上に実質的な輸送能力が削られているのです。 原因② 輸送距離の長距離化 二つ目の要因は、輸送距離の長距離化です。 中国からの自動車輸出は、アジア近隣国にとどまらず、欧州や中南米といった遠隔地へ広がっています。 さらに、2024年以降続いている紅海情勢の緊迫化により、スエズ運河を回避し、喜望峰経由で航行するケースが常態化しています。 記事によると、喜望峰回りによる距離増は6〜7%程度とされていますが、もともと中国から欧州への航路自体が長距離であるため、1隻あたりの船の拘束時間は確実に伸びています。 結果として、船は増えているものの、市場に供給される実質的なスペースは思うように増えない状況が続いています。 原因③ 老齢船比率の上昇 三つ目の要因が、自動車船の老齢化です。 現在、世界の自動車船の平均船齢は15年超と、過去最高水準に達しています。 特に船齢16年以上の船が、全体の約6割を占めている点は見逃せません。 仮に新造船の竣工が進んだとしても、老齢船がスクラップされることで供給増が相殺され、需給が大きく緩和しにくい構造になっています。 これは、将来的にもスペース不足が解消しにくい要因の一つと言えます。 別ソースから見る中国輸出の圧力 ここで、別のソースからの情報も補足します。 中国自動車工業協会などのデータによると、中国の自動車輸出台数は2023年以降、世界トップクラスとなり、2025年には700万台超に達しています。 BYDをはじめとする中国EVメーカーは、自社で自動車船を保有・運航する動きを加速させていますが、それでも生産過剰による押し出し輸出の勢いは収まっていません。 また、欧州や米国による中国製EVへの追加関税は、短期的には駆け込み輸出を誘発する側面もあり、荷動きを底支えしています。 今後の見通しと物流実務への影響 今後についてですが、結論として、自動車船市場は当面、荷主にとって厳しい売り手市場が続く可能性が高いと考えられます。 緩和要因として挙げられるスエズ運河の本格再開や、欧米での現地生産シフトは、即効性のある解決策にはなりにくいでしょう。 中国国内の過剰生産が続く限り、輸出圧力は継続するからです。 仮にスペースが増えた場合でも、これまでコンテナ船で輸送されていた完成車が自動車船へ戻る回帰需要が発生するため、需給が一気に緩む可能性は低いと見られます。 自動車産業のサプライチェーンにおいては、部材調達だけでなく、完成車を運ぶ物流キャパシティそのものが制約要因になっている点を、改めて認識する必要があります。 中古車輸出を手がける企業にとっても、船枠確保が成長のボトルネックとなる状況は、2026年も続くと考えておくべきでしょう。

MSCが日本航路を強化する理由とは?欧州直行消滅時代に進む「完全トランシップ戦略」 | 物流ニュース・物流ラジオ

MSCが日本航路を強化する理由とは?欧州直行消滅時代に進む「完全トランシップ戦略」

本日のテーマは、コンテナ船世界最大手であるMSC(メディタレーニアン・シッピング・カンパニー)の日本戦略です。 2月3日の海事プレスに掲載された、エムエスシー日本の甲斐社長インタビューが非常に示唆に富んでおり、日本発着物流が今後どう変わっていくのかを読み解く重要な材料になっています。 動画視聴はこちらから まずニュースのポイントを整理します。 MSC日本法人は、現状のサービス体制では増加する日本貨物を捌ききれなくなっていると明言し、日本寄港サービスの強化を検討していることを明らかにしました。 具体的な論点は次の3点です。 日本発着サービスのキャパシティ不足への対応 欧州向け完全トランシップ時代への自信 成長市場である南北航路への注力 「日本貨物が増えている」という意外な現実 近年は「ジャパン・パッシング」という言葉が象徴するように、日本市場の存在感低下が語られることが増えてきました。 しかし今回、世界最大の船腹量を持つMSCが「日本貨物が増えている」と公式に言及した点は、業界にとって大きな意味を持ちます。 MSCは2Mアライアンス解消後、単独運航へ移行し、日本発着では「ORIGAMI」サービスを中心に、シンガポールや東アフリカへ直結する独自ネットワークを構築してきました。 さらに、釜山ハブを活用した「KAGUYA」「SUNRISE」など、日本市場を意識したサービス設計により、着実に貨物を集荷してきた背景があります。 欧州航路は「完全トランシップ」が前提になる 今回のインタビューで特に重要なのが、欧州航路の構造変化です。 今春以降、ONEを含むプレミアアライアンスなどが、日本から欧州への直行寄港を終了する予定です。 これにより、日本発欧州貨物は、事実上すべてが海外ハブ港でのトランシップ前提となります。 直行便の有無で船社を選ぶ時代は終わり、今後は「どこで・どれだけ正確につなげるか」という接続品質が最大の競争軸になります。 MSCは25年以上にわたり、釜山・シンガポールなどのハブ港を軸としたトランシップ運用を磨き上げてきました。 甲斐社長が「この変化はMSCにとってプラス」と語る背景には、直行便神話が崩れた後の世界を見据えた自信があります。 成長の主戦場は「南北航路」へ MSCがもう一つ強調しているのが、南北航路への注力です。 これまで主役だった東西航路に対し、今後はアフリカ・南米といった成長市場が物流の主戦場になるとMSCは見ています。 日本からケニアやタンザニアへの直行体制に加え、グループ内にアフリカ・グローバル・ロジスティクス(AGL)を擁することで、港から内陸まで一貫対応できる点は大きな差別化要因です。 日本発着物流は「フィーダー品質」で選ばれる時代へ 今後、日本の港は基幹航路の起点ではなく、巨大ハブ港へのフィーダー拠点としての役割を強めていきます。 重要なのは、どの船社が安定した接続・柔軟な対応・現場目線のサポートを提供できるかです。 MSCが掲げる今年のスローガン「心」は、遅延やトラブル時の対応力を含めた、サービス品質競争の本質を示していると言えるでしょう。

【決算解説】商船三井、通期経常利益1800億円へ上方修正。自動車・エネルギーが牽引する多角化経営の強さ | 物流ニュース・物流ラジオ

【決算解説】商船三井、通期経常利益1800億円へ上方修正。自動車・エネルギーが牽引する多角化経営の強さ

本日は、2月2日の海事新聞に掲載された「商船三井、通期経常1800億円に上方修正」というニュースをもとに、同社の最新決算と、その背景にある事業構造の変化について整理していきます。 動画視聴はこちらから ニュースの概要 まず、今回発表された数字の要点から確認します。 商船三井は1月30日、2026年3月期の連結経常利益予想を、前回予想から280億円上積みし1800億円に修正すると発表しました。 前期(2025年3月期)との比較では57%の減益となりますが、それでも直近予想を明確に上回る着地見通しとなっています。 売上高は1兆8300億円、純利益は2000億円を見込んでいます。 前提条件としては、為替レートを1ドル=150円とし、紅海情勢の不安定化による喜望峰経由の迂回運航は年度末まで継続する想定です。 なぜ上方修正できたのか では、なぜ今回これだけ大きな上方修正が可能だったのでしょうか。 結論から言うと、自動車船とエネルギー・海洋事業の好調が、コンテナ事業の不透明感を補ったという構図です。 要因は大きく三つあります。 ① 自動車船事業のコスト抑制と堅調な荷動き ② エネルギー・海洋事業の高収益構造 ③ ドライバルク市況の回復 自動車船:政策延期が利益を押し上げ まず注目すべきは自動車船事業です。 当初、米国の通商政策変更、特に関税強化などの保護主義的な動きにより、輸送ルートの再構築やコスト増加が懸念されていました。 しかし、政策実施が延期されたことで、従来の効率的な輸送パターンを維持することが可能となりました。 その結果、想定していた運航コストが発生せず、利益を押し上げる形となっています。 荷動き自体も堅調で、通期の輸送台数は289万台を見込んでいます。 エネルギー・海洋:安定収益の柱に成長 二つ目の要因が、エネルギー・オフショア分野です。 原油タンカー市況の改善に加え、特に大きく寄与しているのが海洋事業です。 三井海洋開発(MODEC)が手掛けるFPSO(浮体式石油生産・貯蔵・積み出し設備)は高い稼働率を維持しており、安定的に利益を生み出しています。 海運市況の変動に左右されにくいインフラ型ビジネスが、同社の収益構造を下支えしている点は重要です。 ドライバルク:市況回復が追い風 三つ目はドライバルク事業です。 大型船であるケープサイズ市況が堅調だったことに加え、子会社ギアバルクにおいて、ブラジルから北米向けのパルプ輸送が回復しました。 これが、全体の利益改善に寄与しています。 コンテナ専業との対比 ここで、別のニュースと比較してみましょう。 同時期の報道では、ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)が2025年10〜12月期に税引き後利益で赤字に転落したことが伝えられています。 商船三井の決算資料でも、コンテナ船事業の経常利益予想は250億円で据え置きとなっており、新造船供給過多による運賃下落圧力が依然として強いことが読み取れます。 コンテナ一本足の事業構造は、いま明確なリスクになりつつある 一方で、商船三井は自動車、エネルギー、海洋、不動産と収益源を分散させたコングロマリット型経営を築いてきました。 今回の上方修正は、その戦略が機能していることを示す結果と言えるでしょう。 今後の展望と注意点 今回の利益押し上げ要因の一つである米国通商政策の延期は、あくまで延期であり、撤回ではありません。 2026年度以降、政策が実行に移されれば、自動車輸送におけるトレードパターン変更によるコスト増が現実化する可能性があります。 一方で、足元では円安基調と紅海迂回による船腹需給の引き締まりが下支えとなり、急激な悪化は想定しにくい状況です。 物流実務者としては、北米向けの関税リスクや荷動きの変化を継続的に注視していく必要があるでしょう。