投稿日:2025.12.04 最終更新日:2025.12.04
物流DXのコスト負担を巡る構造課題:CargoWise新価格モデル「取引ベース課金」が業界に突きつけるもの
HPS CONNECT
物流業界激震!WiseTech CargoWiseが価格モデルを大転換
世界的に物流のデジタル化(DX化)が進む中、業界に大きな波紋を呼ぶニュースが飛び込んできました。
世界で最も利用されている物流ソフトウェアの一つ、WiseTech Globalが、その主要製品であるCargoWiseの価格モデルを大幅に変更したことです。
この変更は単なる値上げではなく、「物流DXのコストを誰が、どのように負担すべきか」という、業界全体の構造的な課題を突きつけていると捉えられます。
「ユーザー数ベース」から「取引ベース」への転換
WiseTechが導入したのは「バリューパック・コミュニティ・プライシング」と呼ばれる新しい商業モデルです。
従来の「ユーザー数ベース」の課金体系から、「取引の量と種類」に基づいた取引ベースの単一コストへと基準を大きく転換しました。
例えば、輸入コンテナ1個の管理に対し、特定の料金がかかる形式です。
WiseTechのCEOは、これを価格変更ではなく「全く違う商業モデル」と表現しています。
狙いはDX技術投資コストの「民主化」
この狙いは、AI技術を含む高度なサービスをフォワーダーに利用してもらい、その技術投資のコストを、フォワーダーが荷主に費用として転嫁できる仕組みを作ること、すなわちサービスの民主化を進めることにあります。
現場の不安と最大の懸念点
しかし、現場のフォワーダーからはコストが20%から、高い場合は**50%以上も増加する**との試算があり、年末というタイミングでの急な導入も相まって、不安が爆発しています。
フォワーダーにとって最大の懸念は、この追加コストを荷主が受け入れてくれるかどうかです。
競争の激しい市場では、フォワーダーが費用を吸収すれば、確実に利益率が圧迫されることになります。
ITコストが受け入れられにくい構造的理由
なぜ船会社のサーチャージは受け入れられやすいのに、フォワーダーのITコストは受け入れられにくいのでしょうか?
- 船会社のサーチャージ: 独占的な価格決定力のもと、燃料など外部の変動費として既に認識されている。
- フォワーダーのIT費用: 競合の多い環境下で、企業の効率化のための間接的な運営コストと見なされがち。
WiseTechのCEOは、このITコストを「通関手数料と同様に、フォワーダーが顧客に代わって立て替える費用」として請求されるべきだと主張しますが、業界の声は「荷主は低価格での輸送を望み、結局フォワーダーが負担することになる」と反論しています。
物流業界が迫られる選択肢:「新たな商習慣の創出」
フォワーダーのIT化・DX化は、高付加価値サービス提供のために不可避な未来であり、技術コストは増大していきます。
この状況で、物流業界が直面する選択肢は主に3つです。
- フォワーダーが吸収し消耗戦を戦う
- 運賃に包括的に含める(ブラックボックス化)
- コストを分離・可視化し、新たな商習慣を創る
今回のCargoWiseの価格変更は、まさにこの3番目の「新たな商習慣を創る」という挑戦を物流業界全体に促すものです。
フォワーダーと荷主に求められること
フォワーダーには、ITサービスの価値とコストの必要性を荷主に戦略的に説明していく必要があり、荷主にも、要求するデジタル的な利便性には相応の対価が必要であるという認識が求められるタイミングにきています。
