投稿日:2025.12.05 最終更新日:2025.12.05
【最新レポート】関税ショックの最大の勝者「メキシコ」の台頭と、サプライチェーンに忍び寄るAI監視リスク
HPS CONNECT
ヒューストン国際海事会議(HIMC 25)で語られた関税の真実
今回は、関税ショックと、その最大の勝ち組であるメキシコについてお話しします。
先日の2025年11月上旬にヒューストン国際海事会議(HIMC 25)で、関税の影響やアメリカの関税政策が世界のサプライチェーンをどう変えているのか、という非常に興味深い議論が交わされました。
この最新のレポートを、関税のインパクト、メキシコの台頭、専門家の警告という3つのポイントに絞ってお話しします。
1. 関税のインパクト:輸入業者のボディーブロー
まず一つ目の関税のインパクトです。
会議では全米小売業協会(NRF)の副会長が、「関税とはアメリカの輸入業者が支払う税金である」という基本的かつ重たい事実を突きつけました。
これは企業にとってボディーブローのように効いており、現場からは関税情報がコロコロ変わり、経営陣の報告も追いつかないという悲鳴が上がっています。
さらに、ある大手家具メーカーは今年の米国市場だけでなんと4億ドル以上の追加コストを予測しており、これは企業努力でなんとかなるレベルを超えています。
もはや東南アジアも「安全地帯」ではない
では、工場を移せばいいのではないかと思われますが、これまでのトレンドだった中国からタイやカンボジアなど東南アジアへの移転も、専門家によればもはや安全地帯ではなくなっており、東南アジア製品にも新たな関税リスクが出てきています。
そこで米国政府が推しているのが、**USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)**を使った北米地域での製造です。
2. ニアショアリング最強の勝者「メキシコ」の台頭
ここで二つ目のポイントであるメキシコの台頭が登場します。
今回の会議では、パネリスト全員が口を揃えて「ニアショアリング最強の勝者はメキシコだ」と指摘しました。
実際、アメリカ市場でアクセスを維持するため、中国のメーカー自身がこぞってメキシコに工場を作っているという現象が起きています。
ある専門家は、メキシコの産業の成長の勢いを「雑草のようだ」と表現するほどです。
活発化する投資と越境サプライチェーンのハブ化
具体的な動きとして、世界最大の物流企業キューネ・アンド・ナーゲルは、テキサス州エルパソの国境物流拠点を大幅に拡張しており、前の施設はわずか1年で満杯になったほど物が動いています。
また、インドの自動車部品大手マザーソン・グループがアウディ向けの供給強化のためメキシコの工場に5000万ドルを投資するなど、製造業での投資も活発です。
地理的な近さとUSMCAのメリットにより、メキシコは今や越境サプライチェーンのハブになっているのです。
3. 専門家の警告:AI監視と「新聞に名前を載せないこと」の重要性
そして最後の三つ目、少し怖い話ですが、専門家の警告です。
専門家は、このメキシコシフトに浮かれている場合ではないと警告しています。
アメリカの税関(CBP)も進化しており、AIを使って監査や取引審査を強化しています。
その結果、これまで見逃されていたミスもAIが指摘するようになり、さらに怖いのは執行の可視化、つまり違反が見つかった企業の名前を公表する動きが出ていることです。
専門家は、「今や自社の名前を新聞に載せないようにすることが重要だ」とまで警告しています。
特に、海外サプライヤー任せのDDP契約をしている企業は要注意で、データが適当であれば、深刻な法的なリスクを負うことになると述べています。
今回の内容をまとめると、関税政策がサプライチェーンを根本的に変え、その結果としてメキシコが世界の工場になりつつありますが、そこにはAIによる監視という新たなリスクも潜んでいます。
チャンスとリスクは隣り合わせであり、これからの物流戦略では、メキシコの活用と鉄壁のコンプライアンスという二つのキーワードが重要になると言えるでしょう。
