【30年ぶり】国際物流コスト崩壊の始まりか?

【30年ぶり】国際物流コスト崩壊の始まりか? | 物流ニュース・物流ラジオ

今回は、日本通運による通関業務料金の大幅改定について解説します。

NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)傘下の日本通運は、12月11日、2026年1月1日より通関関連料金を平均約25%引き上げると発表しました。

対象は、各種通関申告業務および保税関連申請で、少額貨物の簡易通関扱いも含まれます。

この改定は、事実上およそ30年ぶりという、極めて異例の動きです。

この記事を書いた人
飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)

2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!

価格据え置きの呪縛と、構造的な限界

この「30年ぶり」という期間は、何を意味しているのでしょうか。

今回の改定は、単なる値上げではありません。

価格の正常化と捉える必要があります。

通関業界では、1995年に設定された旧上限金額が、法的根拠を失った後も、事実上の価格拘束として残り続けてきました。

さらに、荷主側に定着した「通関料は安いもの」という固定観念も、価格転嫁を妨げてきました。

この二重構造が、30年もの価格据え置きを生んできたのです。

労務コスト上昇と業務高度化の現実

一方で、この30年間に通関業務の負荷は大きく変化しました。

最大の要因は、人件費を中心とした労務コストの上昇です。

通関業務は人への依存度が高く、原価の大半を人件費が占めます。

特に中小通関業者では、事業継続そのものに影響が出かねない水準に達していました。

加えて、業務内容も高度化・複雑化しています。

  • EPA拡大による原産地規則判断
  • 安全保障貿易管理・他法令該否確認の厳格化
  • AEO制度維持とコンプライアンス対応
  • システム投資・DX対応

これらに対応するため、専門人材と継続的な投資が不可欠となっています。

今回の改定は、こうした構造的歪みが限界に達したことを示しています。

業界への波及と、経営層・投資家への示唆

今回の動きは、日本通運一社にとどまらない可能性があります。

業界では、この改定が価格是正の呼び水となり、他の大手フォワーダーにも波及するとの見方が出ています。

経営層・投資家が注目すべきポイントは次の二点です。

① 国際競争力を維持するためのコスト
高度な専門性とコンプライアンス体制は、日本の国際物流の強みです。
適正な対価が確保されなければ、その基盤は維持できません。

② サプライチェーン全体のコスト再評価
輸送運賃だけでなく、見えにくい通関費用も含めた総コスト管理が求められます。

NXHDは、今回の改定により、法令順守と品質向上を徹底し、国際物流の円滑化を支えるとしています。

国際物流を支えるコスト構造は、今後も重要な経営課題であり続けます。

ロジラジでは、この価格正常化の動きが、日本の国際貿易にどのような影響をもたらすのか、引き続き注視していきます。

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