投稿日:2025.12.22 最終更新日:2025.12.22
マースクが紅海通航へ大きな一歩 スエズ回帰と荷主と保険が阻む物流正常化
本日は、マースクが紅海およびスエズ運河ルートの通航再開に向けて、象徴的な一歩を踏み出したというニュースについて解説します。
結論から言えば、船社側の準備は進みつつある一方で、物流の正常化にはなお高い壁が残っている状況です。
HPS CONNECT
動画視聴はこちらから
マースクが2年ぶりに紅海を通航
今週、業界の注目を集めたのがマースクの試験的な紅海通航です。
シンガポール船籍のマースク・セバロックが、フーシ派の影響下にあるバブ・エル・マンデブ海峡を無事に通過しました。
この船はインドから米国東海岸へ向かうサービスに従事しており、12月18日から19日にかけて紅海の難所を抜け、現在はニューヨーク・ニュージャージー港へと航行しています。
マースクはこれを非常に重要な前進と位置付けています。
ただし同社は、これが全面復旧を意味するものではないと明言しています。
あくまで安全基準が満たされることを前提とした段階的プロセスの第一歩であり、次の航海スケジュールはまだ確定していません。
主要船社で進むスエズ回帰の動き
紅海通航に向けた動きは、マースクだけに限られません。
ここ数週間で、複数の主要船社がスエズ運河回帰を具体化させています。
- CMA CGMは、2026年第2四半期までにインド・米国東海岸サービスでスエズ経由を定着させる計画を発表しました。
- RCLは、すでに紅海と中国を結ぶサービスを再開しています。
- ONEやエバーグリーンも、スロットチャーターを通じて慎重に関与を拡大しています。
これらの背景には、10月初旬に成立したイスラエルとハマスの停戦合意以降、商船への攻撃が止まっているという事実があります。
一部の船社は、海上のセキュリティ環境が許容可能な水準まで改善したと判断し始めています。
下がる戦争保険料と残る大きな壁
セキュリティ状況の改善に伴い、船舶に課される追加戦争保険料も低下しています。
一時は船体価格の0.7%から1.0%に達していた保険料は、現在では約0.2%と、攻撃が始まった2023年末以来の最低水準となりました。
しかし、ここで物流の難しさを象徴する問題が浮かび上がります。
それが荷主の同意が得られないという壁です。
荷主がスエズ回帰に慎重な理由
ドイツのハパックロイドは、インド・米国東海岸サービスをスエズ経由に戻すことについて顧客の意向を確認しました。
その結果、多くの荷主が反対姿勢を示しました。
理由は主に二つあります。
- 貨物保険の空白として、南部紅海をカバー対象外とする保険が依然として多い点です。
- コストの不透明性として、地政学リスク再燃時の追加負担に納得できない点です。
このため、ハパックロイドは60日から90日の移行期間が必要とし、当面はアフリカ迂回を継続する慎重な姿勢を示しています。
船社が動いても、荷主と保険が動かなければ物流ルートは変わらないという現実が浮き彫りになっています。
2026年に向けた物流の分岐点
今回のマースクやCMA CGMの動きは、物流正常化に向けた試金石と言えます。
船社はアフリカ迂回による燃料費や船隊維持費を削減したい一方で、荷主は2年間かけて構築した迂回前提のサプライチェーンを簡単には戻せません。
今後の焦点は、安全に通航できる実績をどれだけ積み上げられるかです。
その実績が保険会社の判断を変え、貨物保険の制限が解除されれば、業界全体の安心感が広がる可能性があります。
2026年前半は、まさにこの安心の証明が問われる重要な局面になりそうです。
