自動車船の需給はなぜ緩まないのか。輸出入ギャップ拡大が生む構造問題

自動車船の需給はなぜ緩まないのか。輸出入ギャップ拡大が生む構造問題 | 物流ニュース・物流ラジオ

本日は2月3日の海事新聞「自動車船、輸出入ギャップ拡大。需給タイト 継続か」という記事と、1月20日に行われた日本郵船のIR説明会での発表内容をもとに、海運市況の中でも特に自動車船(PCTC)の最新動向について整理していきます。

ここ数年、自動車船のスペース不足、いわゆる「スペース・タイト」の状況が続いていますが、2026年に入った現在も、この問題は簡単には解消しない可能性が高まっています。

この記事を書いた人
飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)

2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!

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自動車船市況の現状整理

まず、現在の市況について整理します。

日本郵船の調査グループによる分析では、自動車や建設機械を運ぶ自動車船の需給は、引き続き引き締まった状態が続くと予測されています。

もともと市場では、2024年から2025年にかけて新造船の竣工が相次ぐことで、2026年には需給が緩和し、スペースが取りやすくなると見られていました。

実際に2025年時点では、世界の自動車船の船腹量は約900隻規模まで増加しています。

しかし、実態としては、船の数が増えているにもかかわらず、需給は緩んでいません。

その背景には、単なる船腹量の増減では説明できない、構造的な要因が存在しています。

原因① 輸出入アンバランスの急拡大

最も重要な要因の一つが、アジア地域における輸出入アンバランスの拡大です。

日本郵船の説明によると、従来、日本・韓国・中国といった東アジア地域では、自動車の輸出量は輸入量の3倍から4倍程度でした。

それでも輸出超過ではありましたが、市場としては一定のバランスが保たれていました。

ところが、中国からの自動車輸出が急拡大したことで、2025年にはこの比率が5倍超にまで広がったと見られています。

物流の世界では、片道だけ貨物を積み、復路が空船となる「片荷」は、最も効率の悪い状態です。

輸出が輸入の5倍という状況は、多くの船がアジアへ空船で戻らざるを得ないことを意味します。

その結果、船全体の稼働効率が大きく低下し、名目上の船腹量以上に実質的な輸送能力が削られているのです。

原因② 輸送距離の長距離化

二つ目の要因は、輸送距離の長距離化です。

中国からの自動車輸出は、アジア近隣国にとどまらず、欧州や中南米といった遠隔地へ広がっています。

さらに、2024年以降続いている紅海情勢の緊迫化により、スエズ運河を回避し、喜望峰経由で航行するケースが常態化しています。

記事によると、喜望峰回りによる距離増は6〜7%程度とされていますが、もともと中国から欧州への航路自体が長距離であるため、1隻あたりの船の拘束時間は確実に伸びています。

結果として、船は増えているものの、市場に供給される実質的なスペースは思うように増えない状況が続いています。

原因③ 老齢船比率の上昇

三つ目の要因が、自動車船の老齢化です。

現在、世界の自動車船の平均船齢は15年超と、過去最高水準に達しています。

特に船齢16年以上の船が、全体の約6割を占めている点は見逃せません。

仮に新造船の竣工が進んだとしても、老齢船がスクラップされることで供給増が相殺され、需給が大きく緩和しにくい構造になっています。

これは、将来的にもスペース不足が解消しにくい要因の一つと言えます。

別ソースから見る中国輸出の圧力

ここで、別のソースからの情報も補足します。

中国自動車工業協会などのデータによると、中国の自動車輸出台数は2023年以降、世界トップクラスとなり、2025年には700万台超に達しています。

BYDをはじめとする中国EVメーカーは、自社で自動車船を保有・運航する動きを加速させていますが、それでも生産過剰による押し出し輸出の勢いは収まっていません。

また、欧州や米国による中国製EVへの追加関税は、短期的には駆け込み輸出を誘発する側面もあり、荷動きを底支えしています。

今後の見通しと物流実務への影響

今後についてですが、結論として、自動車船市場は当面、荷主にとって厳しい売り手市場が続く可能性が高いと考えられます。

緩和要因として挙げられるスエズ運河の本格再開や、欧米での現地生産シフトは、即効性のある解決策にはなりにくいでしょう。

中国国内の過剰生産が続く限り、輸出圧力は継続するからです。

仮にスペースが増えた場合でも、これまでコンテナ船で輸送されていた完成車が自動車船へ戻る回帰需要が発生するため、需給が一気に緩む可能性は低いと見られます。

自動車産業のサプライチェーンにおいては、部材調達だけでなく、完成車を運ぶ物流キャパシティそのものが制約要因になっている点を、改めて認識する必要があります。

中古車輸出を手がける企業にとっても、船枠確保が成長のボトルネックとなる状況は、2026年も続くと考えておくべきでしょう。

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