投稿日:2026.02.10 最終更新日:2026.02.10
マースクはなぜ海運以外で稼ぐのか。L&Sとターミナルで挑む多角化戦略と2026年問題
本日は、海運大手マースクの最新の経営戦略、特に「事業の多角化による安定成長」について解説していきます。
参照するのは、海事プレスおよび日本海事新聞に掲載されたマースクの2025年通期決算と中期戦略に関する報道です。
加えて、海運市況データを踏まえ、なぜ今マースクが「海運以外」に注力しているのか、その背景と今後を整理します。
飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)
2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!
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マースク決算の全体像とL&S事業
マースクは2016年以降、単なるコンテナ船社から「コンテナ物流のインテグレーター」ロジスティクス&サービス(L&S)事業の収益改善です。
2025年のL&S事業の売上高は約151億ドルとなり、前年比1.2%増を確保しました。
さらに、EBITは約7億ドルと前年比36%増となり、大幅な増益を達成しています。
EBITマージンは4.8%まで改善しましたが、中期目標である6%には届いておらず、経営陣は引き続き最重要課題と位置づけています。
L&S事業は「規模拡大」よりも「利益体質の強化」を優先している点が特徴です。
好調が際立つターミナル事業
一方で、明確に好調と言えるのがターミナル事業です。
2025年のターミナル事業は、売上高が約20%増、EBITが約31%増となり、過去最高の業績を記録しました。
この背景には、ハパックロイドとの新たな提携である「ジェミニ・コーポレーション」の存在があります。
ジェミニは主要ハブ港に寄港を集中させ、定時性を重視する戦略を採っています。
その結果、マースクの自社ターミナルがハブ港として位置づけられ、取扱量は約9%増加しました。
- 自社ターミナルへの貨物集中
- 定時性向上による顧客評価の改善
- インフレ局面でのターミナル料金改定
投下資本利益率(ROIC)は16.1%と、目標の9%を大きく上回っており、現在のマースクにとって最大の収益源となっています。
なぜ今、多角化を急ぐのか
マースクが多角化を急ぐ最大の理由は、海運市況のボラティリティ対策です。
2025年から2026年にかけて、コロナ禍に発注された大量の新造コンテナ船が竣工し、供給過剰が懸念されています。
いわゆる「2026年問題」です。
マースク自身も、2026年の見通しについては慎重な姿勢を示しており、最悪の場合、調整後EBITが赤字になる可能性にも言及しています。
スエズ運河が全面再開すれば、船腹供給は一気に増え、運賃下落圧力が強まることになります。
この環境下で、海運一本足の経営はリスクが高く、L&S事業とターミナル事業で収益の土台を固める必要があるのです。
今後の展望と注目点
マースクは今後10年間で、世界のターミナル能力に対して大規模な投資を行う方針を示しています。
これは単なる設備投資ではなく、サプライチェーン全体の主導権を握るための戦略投資と言えます。
2026年は海運業界にとって厳しい一年になる可能性が高いですが、このインテグレーター戦略がどこまで業績を下支えできるのかが試されます。
L&S事業の利益率が改善し、海運部門の変動を吸収できれば、他船社も追随し、業界構造そのものが変わる可能性があります。
2026年は、マースクの変革の真価が問われる重要な年になりそうです。
