通関料金30年据え置きの限界 日本通運の値上げで業界構造は変わるのか

通関料金30年据え置きの限界 日本通運の値上げで業界構造は変わるのか | 物流ニュース・物流ラジオ

本日は3/10の海事新聞の『通関業、価格転嫁へ機運。日本通運で弾み、大綱提言も追い風』を参照して、30年間据え置かれてきた通関業界の価格転嫁と業界構造改革についてお話しします。

この記事を書いた人
飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)

2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!

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ニュース概要

通関業界で約30年ぶりとなる本格的な価格改定の動きが始まっています。

日本通運は2026年1月から通関・保税関連業務の基本料金を平均約25%引き上げ、既に500社程度から値上げへの了承を得ています。

現在の通関料金は1995年の水準で定着しており、輸出申告1件当たり5,900円、輸入申告1万1,800円という当時の上限額が事実上の標準となっています。

一方で人件費は同期間で約2倍に上昇し、2025年度の最低賃金は1995年度の2倍近くに達しています。

財務省関税局の資料によると、通関業務収入は過去20年間1,100億円前後で横ばいが続いている状況です。

通関業界の構造的課題

通関業界が直面している課題は深刻です。

業務の原価の大部分を占める人件費が継続的に上昇する一方で、料金水準は1995年から事実上据え置かれています。

働き方改革の推進、輸入貨物の増加、申告1件当たりのアイテム数増加、EPA(経済連携協定)や他法令確認の複雑化など、業務負荷は確実に増大しています。

加えて、システム関連費用の増加も事業者の収益を圧迫しています。

名古屋通関業会が2024年に実施したアンケートでは「今の料金ではとても業として商売に乗ってこない」という声まで聞かれる状況で、事業継続に必要な利益確保が困難になっています。

日通の先行事例とその波及効果

国際物流最大手である日本通運の価格改定決断は、業界全体に大きなインパクトを与えています。

同社は年間通関件数約130万件を扱い、そのほとんどが旧上限額以下での受託だったため、今回の改定は業界の価格構造を根本から変える可能性があります。

首都圏の中堅海貨業者は「日通さんの発表を見て、当社も25%程度の値上げを目標に顧客にアプローチを始めた」と述べています。

大手海貨業者関係者も「日通さんが殻を破ってくれた。動くとすれば今しかない」と続々と追随の動きを見せています。

業界内の温度差と課題

ただし、すべての事業者が積極的ではありません。

営業戦略上様子見する事業者も多く、「値上げを求めると契約を切られる恐れがある」との懸念が根強く存在します。

特に通関業は専業事業者が1社に限られ、大半の事業者が港湾運送、倉庫、フォワーディングなど他業務と組み合わせて利益を確保している構造のため、通関料金単体での価格交渉が困難な面があります。

関税・消費税などの立て替え払い解消を優先する事業者も見られ、対応が分かれています。

政府の後押しと環境整備

政府も業界支援に動いています。

財務省関税局は2024年12月に関税・消費税の立て替え問題や価格転嫁について荷主団体に注意喚起文書を発出しました。

公正取引委員会も監視を強化しており、昨年9月の関税局資料が顧客理解の促進に役立っているという報告もあります。

さらに重要なのは、3月3日に公表された2026-2030年度物流大綱策定への提言「越境ECが拡大する中での通関業の役割の重要性と適正な業務運営の確保」が明記されたことです。

価格転嫁の必要性周知など「適正な業務運営を確保するための環境整備」の推進が盛り込まれています。

日本の物流インフラへの影響

通関業の健全化は日本の物流インフラ全体に大きな影響を与えます。

通関業務は国際貿易の入り口として不可欠な機能であり、業界の経営基盤が不安定化すれば、日本の貿易円滑化に支障をきたす可能性があります。

特に越境ECの急拡大により通関件数が増加する中、適正な価格水準の確保は優秀な人材確保と業務品質維持に直結します。

人手不足が深刻化する物流業界において、通関業の持続可能性確保は国家的な課題と言えるでしょう。

今後の展望

今後1年間で通関業界の価格構造は大きく変化すると予想されます。

日本通運の成功事例が他社の価格改定を後押しし、2026年後半には業界全体で新たな価格水準が定着する可能性があります。

次期物流大綱の策定過程で通関業の現状がさらにクローズアップされれば、各社が価格転嫁に踏み出しやすい環境が整うでしょう。

ただし、荷主との交渉は個社の営業力や顧客関係によって結果が分かれるため、業界内での格差拡大も予想されます。

長期的には、適正な価格水準の確立により業界の持続可能性が高まり、日本の国際物流基盤がより強固になると考えられます。

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