日本通運25%値上げで、通関業界30年ぶり価格転嫁始動!

日本通運25%値上げで、通関業界30年ぶり価格転嫁始動! | 物流ニュース・物流ラジオ

通関業界で約30年ぶりとなる本格的な価格改定の動きが始まっている。日本通運が2026年1月から通関・保税関連業務の基本料金を平均約25%引き上げると発表し、既に500社程度から値上げへの了承を得ている状況だ。1995年の水準で定着していた通関料金が、ついに適正化への転換点を迎えた。人件費が同期間で約2倍に上昇する中、業界の持続可能性確保に向けた構造改革が本格化している。

この記事を書いた人
飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)

2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!

動画視聴はこちらから

30年据え置きの料金構造とコスト増の実態

図解:通関料金と人件費推移の比較グラフ(1995年〜2025年)

現在の通関料金は1995年の水準で定着しており、輸出申告1件当たり5,900円、輸入申告1万1,800円という当時の上限額が事実上の標準となっている。一方で人件費は同期間で約2倍に上昇し、2025年度の最低賃金は1995年度の2倍近くに達している状況だ。

通関業界が直面している課題は深刻である。業務の原価の大部分を占める人件費が継続的に上昇する一方で、料金水準は1995年から事実上据え置かれている。働き方改革の推進、輸入貨物の増加、申告1件当たりのアイテム数増加、EPA(経済連携協定)や他法令確認の複雑化など、業務負荷は確実に増大している。

財務省関税局の資料によると、通関業務収入は過去20年間1,100億円前後で横ばいが続いており、名古屋通関業会が2024年に実施したアンケートでは「今の料金ではとても業として商売に乗ってこない」という声まで聞かれる状況となっている。

日本通運の先行事例が業界に与えるインパクト

図解:日本通運の価格改定内容と業界への波及効果

国際物流最大手である日本通運の価格改定決断は、業界全体に大きなインパクトを与えている。同社は年間通関件数約130万件を扱い、そのほとんどが旧上限額以下での受託だったため、今回の改定は業界の価格構造を根本から変える可能性がある。

日本通運の安藤恒夫常務執行役員は2月20日の会見で「一定の効果が出ている。既に500社程度から何らかの形で了承を得ている」と手応えを語っている。この成功事例が他社の価格改定を後押しする効果は絶大だ。

首都圏の中堅海貨業者は「日通さんの発表を見て、当社も25%程度の値上げを目標に顧客にアプローチを始めた」と述べており、大手海貨業者関係者も「日通さんが殻を破ってくれた。動くとすれば今しかない」と続々と追随の動きを見せている。

業界内の温度差と価格転嫁の課題

図解:通関業者の事業構造と価格交渉の困難性

ただし、すべての事業者が積極的ではない。営業戦略上様子見する事業者も多く、「値上げを求めると契約を切られる恐れがある」との懸念が根強く存在する。

特に通関業は専業事業者が1社に限られ、大半の事業者が港湾運送、倉庫、フォワーディングなど他業務と組み合わせて利益を確保している構造のため、通関料金単体での価格交渉が困難な面がある。関税・消費税などの立て替え払い解消を優先する事業者も見られ、対応が分かれている状況だ。

また、荷主企業との長年の取引関係や契約更新時期の問題など、個社の事情により価格転嫁の実現時期にも差が生じることが予想される。

政府の後押しと環境整備の進展

図解:政府による通関業界支援策の概要

政府も業界支援に動いている。財務省関税局は2024年12月に関税・消費税の立て替え問題や価格転嫁について荷主団体に注意喚起文書を発出した。公正取引委員会も監視を強化しており、昨年9月の関税局資料が顧客理解の促進に役立っているという報告もある。

さらに重要なのは、3月3日に公表された2026-2030年度物流大綱策定への提言に「越境ECが拡大する中での通関業の役割の重要性と適正な業務運営の確保」が明記されたことだ。価格転嫁の必要性周知など「適正な業務運営を確保するための環境整備」の推進が盛り込まれている。

近年の越境EC市場の急速な拡大により、通関業務の重要性はさらに高まっている。小口貨物の増加により申告件数は増加傾向にある一方、1件当たりの価格は据え置かれたまま、効率性と品質の維持が求められるという厳しい状況が続いている。

日本の貿易インフラと今後の展望

図解:通関業の健全化が日本の貿易インフラに与える影響

通関業の健全化は日本の物流インフラ全体に大きな影響を与える。通関業務は国際貿易の入り口として不可欠な機能であり、業界の経営基盤が不安定化すれば、日本の貿易円滑化に支障をきたす可能性がある。

特に人手不足が深刻化する物流業界において、適正な価格水準の確保は優秀な人材確保と業務品質維持に直結する。デジタル化やAI技術の導入による業務効率化への投資原資確保の観点からも、適正な料金体系の構築が不可欠だ。

今後1年間で通関業界の価格構造は大きく変化すると予想される。日本通運の成功事例が他社の価格改定を後押しし、2026年後半には業界全体で新たな価格水準が定着する可能性がある。次期物流大綱の策定過程で通関業の現状がさらにクローズアップされれば、各社が価格転嫁に踏み出しやすい環境が整うだろう。

長期的には、適正な価格水準の確立により業界の持続可能性が高まり、日本の国際物流基盤がより強固になると考えられる。ただし、荷主との交渉は個社の営業力や顧客関係によって結果が分かれるため、業界内での格差拡大も予想される状況だ。

関連記事