投稿日:2026.04.01 最終更新日:2026.04.01
関税大混乱2025:1660億ドル払い戻しと訴訟の行方
2025年、米国の関税制度をめぐる状況が大きく動いている。米最高裁がトランプ政権下で導入されたいわゆる「トランプ関税」を違法と判断したことで、払い戻し請求・訴訟・新たな追加関税という三重の嵐が同時進行する異例の局面を迎えた。影響額は数千億ドル規模にのぼり、日本の輸出入企業やフォワーダーにとっても対岸の火事ではない。この90日間に何が起き、企業はどう備えるべきかを整理する。
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飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)
2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!
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最高裁判決の核心:何が「違法」とされたのか
米最高裁は、トランプ政権がIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に課した関税について、「IEEPAの『規制』という文言には関税賦課の権限は含まれない」と判断した。関税は議会の明示的な承認を要する「課税行為」であり、大統領令のみで設定することはできないという論理だ。
この判決が直撃するのは、中国・カナダ・メキシコをはじめ数十カ国からの輸入品に課されていたトランプ関税全般である。影響を受ける貿易額は数千億ドル規模とされ、すでに支払い済みの関税の還付総額は約1,660億ドル(約24兆円)に達する可能性があると試算されている。

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1,660億ドルの払い戻しプロセス:現実になるか
CBP(米国税関・国境警備局)は電子申請ポータルを新設し、輸入者がオンラインで還付請求を提出できる仕組みを構築中だ。フローとしては以下が想定されている。
- 電子申請ポータルから請求を提出
- 自動検証による審査
- 財務省経由での支払い
しかし対象となるエントリー数は7,000万件超とされており、担当弁護士は「手動処理では事実上不可能なスケール」と指摘している。過去に類似事例として挙げられる港湾維持税訴訟では、約28億ドルの還付に「数年」を要した。今回はその約60倍の規模であるため、還付完了まで数年かかる可能性を前提に計画を立てておく必要がある。

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訴訟合戦と企業の対応:動き出しが遅いほど不利
還付請求と並行して、米国企業を中心に国際貿易裁判所(CIT)への訴訟が相次いでいる。訴訟戦略を取る上で今すぐ着手すべき準備として、以下の三点が挙げられる。
- 専門弁護士の早期確保(対応可能な弁護士は取り合いになる可能性がある)
- 過去のエントリー記録の整備(インボイス・パッキングリスト・HSコード・原産地証明書)
- トランプ関税対象品目の特定(品目ごとの影響額の把握)
書類が揃っていない状態では、払い戻し申請が本格化した際に対応できない。「準備が整ってから動く」では遅い局面に入っている。

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「次の関税」が迫っている:議会立法という新たなリスク
判決によって大統領権限が制限された一方、議会側では関税賦課権限を正式に立法化しようとする動きが出始めている。つまり、「トランプ関税がなくなったから安心」という判断は危険だ。別の法的根拠に基づく新たな関税が、近い将来に登場する可能性がある。
今回の局面は「関税の終わり」ではなく、「関税の作り直し」と捉えるべきだ。特にサプライチェーン戦略への影響は大きい。
- 「安くなったから中国調達に戻ろう」と判断した直後に新関税が来るリスクがある
- 調達先・価格設定・在庫戦略が根底から揺らぐ可能性がある
- 「どこに向けて意思決定すればいいか分からない」という不確実性そのものがコストになっている

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今後90日間の見通しと実務的備え
今後90日間で同時進行が予想される動きは大きく三つだ。
1. 払い戻し申請受付の本格開始
2. 議会立法による関税の再設定
3. 訴訟の一部本格化
特に注目すべきは議会の立法スピードである。還付が始まる前に新関税が導入された場合、企業の手元キャッシュフロー計算が再び狂うことになる。楽観シナリオと悲観シナリオの両面で社内シミュレーションを今のうちに行っておくことが強く求められる。
輸入者として今すぐ取り組める実務的なアクションをまとめると、以下のとおりだ。
- 過去のトランプ関税支払い額の集計(品目・金額・エントリー番号の一覧化)
- HSコード・原産地証明書の再確認
- 専門家(弁護士・通関士・フォワーダー)との早期相談
- サプライチェーン戦略の複数シナリオ検討
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米国関税をめぐる状況は、今後も目まぐるしく変化することが予想される。自社の輸出入業務への影響や、サプライチェーン戦略の見直しについてお悩みの方は、ぜひHPS CONNECTまでお気軽にご相談ください。貿易実務のプロフェッショナルが、御社の状況に合わせた対応策をご提案いたします。
