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貿易コラム

インドネシアでAI通関PF始動 HAKOVOがASEAN貿易デジタル化を加速 | 物流ニュース・物流ラジオ

インドネシアでAI通関PF始動 HAKOVOがASEAN貿易デジタル化を加速

本日は2月20日の海事プレスの「インドネシアでAI貿易通関PF展開、HAKOVO、デルタマス工業団地と提携」と言う記事を参照して、特にASEANにおける貿易デジタル化とHAKOVO(ハコボ)のAIソリューションの最新動向にフォーカスしてお話しします。 動画視聴はこちらから HAKOVOがデルタマスでAI通関システムを展開 シンガポールを拠点に貿易・通関業務のデジタル化を進めるスタートアップ企業「HAKOVO」が、インドネシアのデルタマス工業団地と提携しました。 この工業団地は、現地のシナルマスグループと日本の双日が共同開発したジャカルタ東部の一大拠点で、自動車や食品メーカー、データセンターなど約180社が入居しています。 記事によると、今年の5月ごろからこれらの入居企業に対し、HAKOVOの「AI駆動型デジタル貿易通関・物流管理プラットフォーム」を展開していく方針とのことです。 このプラットフォームの導入により、 手作業に依存していた貿易文書のAI-OCRによるデータ化 高精度なHSコードの自動分類 輸入禁止・制限品目(通称:LARTAS)のリアルタイム検出 などが可能になります。 また、日本の貿易プラットフォーム「TradeWaltz(トレードワルツ)」とも連携しており、日本発の輸出データをシームレスに取得し、インドネシアの税関システムでの自動申告に繋げることができる画期的なシステムです。 導入による変化 通関書類の自動化だけでなく、申告精度向上とコンプライアンス強化まで実現します。 なぜ「通関」に特化するのか? ここで、別のソースである2023年11月29日付けの海事新聞に掲載された、HAKOVOの赤穂谷(あかほだに)CEOのインタビュー記事も交えて、なぜこのシステムが求められているのか、その機能の深掘りをしていきたいと思います。 実はHAKOVOは、創業当初はデジタルフォワーディング事業を展開していました。 しかし、元DHL出身の赤穂谷CEOは「結局、アジア各国での通関時に貨物が止まってしまう」という物流業界の根本的な課題に直面します。 通関部分がアナログなままでは、国際輸送全体のデジタル化は成し遂げられないと考え、通関特化型のプロダクトの開発へと舵を切りました。 特にASEANの通関手続きは、EUのように統一されておらず、非常に複雑です。 例えば、HSコード(輸出入統計品目番号)はASEAN内では8桁で共通化が進んでいますが、日本は10桁、中国は最大13桁と異なり、複雑なすり合わせが必要です。 申告と税関側の判断にズレが生じれば、 想定外の関税 貨物の長期ストップ といったリスクに直結します。 AIソリューション「Smartariff」 そこで活躍するのが、HAKOVOのAIソリューション「Smartariff」です。 単なる規制のデータベースではなく、長年にわたる顧客の商品名やID、輸出入者名などをAIに機械学習させ、商品名が多少変わっても最適なHSコードを自動で引き当てることができます。 さらに、数量が規制範囲内かどうかのルールベースのチェックも組み合わせた「ハイブリッド型」になっているのが最大の強みです。 FTA(自由貿易協定)などの優遇措置の適用も提案してくれるため、荷主企業にとっては無駄なコスト削減と法令順守の両立が可能になります。 AI学習によるHS分類精度向上 ルールベースとの統合チェック FTA適用提案による関税最適化 AIの学習エコシステムとASEAN全体への波及 記事の内容と現状の動向から、今後どうなっていくでしょうか。 HAKOVOはすでに昨年10月、JFE商事スティールインドネシアともパートナーシップを結んでおり、さらには国営港湾会社ペリンドを通じてインドネシアのシングルウインドーへの接続も完了しています。 今回、デルタマス工業団地という180社が集積する巨大なエコシステムに導入されることで、多種多様な品目の「生きた通関データ」が日々AIに蓄積されることになります。 これにより、機械学習の精度は加速度的に向上していくでしょう。 インドネシアやフィリピンといった、特に通関コストが高く課題の多い国での足場が固まれば、今後はベトナム、タイ、マレーシアなどへの横展開が見えてきます。 長期的には欧米との接続も視野に入れているとのことですので、ASEANを起点としたグローバルなサプライチェーンの強靭化に、日本発の技術や日系プラットフォームが深く寄与していく未来が見えてきそうです。

AI開発の加速で変わる物流戦略 ― 荷主は「待つ」が正解か? | 物流ニュース・物流ラジオ

AI開発の加速で変わる物流戦略 ― 荷主は「待つ」が正解か?

本日は、2026年2月12日のJournal of Commerceの「AI開発の急速なペースは、荷主に『忍耐』を促している」という記事をもとに、急速に進むAI開発と、荷主企業が取るべき「あえて待つ」という戦略についてお話をしていきます。 動画視聴はこちらから 荷主は「待つ」べきか? さて、先日ラスベガスで開催されたサプライチェーン・テクノロジーのカンファレンス「Manifest(マニフェスト)」でも、話題の中心はやはり「AI」でした。 世界中がAIの真価を見極めようとしている今、荷主企業や物流サービスプロバイダー(いわゆるLSP)は、「今すぐAIにフルコミットすべきか」、それとも「少し様子を見るべきか」という決断を迫られています。 今回のJOCの記事では、非常に興味深い提言がなされています。 それは、「荷主は、最先端のAI導入に関しては、少し我慢強く待つべきではないか」というものです。 理由1:開発サイクルの圧倒的な短縮 なぜ、「待つ」ことが推奨されているのか。 これには大きく分けて3つの理由があります。 まず1つ目は、「開発サイクルの圧倒的な短縮」です。 OpenAIやAnthropicといった企業の開発競争により、コーディングやソフトウェア開発のスピードが劇的に上がっています。 かつては「先行者利益」を得るために早く導入することが正義でしたが、今は状況が違います。 今の最先端技術も、数ヶ月後には「古い技術」になってしまう。 つまり、今、巨額の投資をしてシステムを組んでも、半年後にはより安価で高性能なものが登場し、後発組にあっさり追い抜かれてしまう「リープフロッグ(蛙飛び)現象」が起きやすい環境なんです。 ポイント ・AI技術の進化は数ヶ月単位 ・高額投資の回収前に陳腐化リスク ・後発組が有利になる可能性 理由2:荷主と物流企業の役割の違い 2つ目は、「荷主と物流会社の役割の違い」です。 物流会社にとって、AI投資は待ったなしの課題です。 なぜなら、彼らの至上命題は「業務効率化によるコスト削減」と「荷主へのサービス向上」だからです。 利益率の改善に直結するため、リスクを取ってでも投資をする明確な動機があります。 一方で荷主企業には、物流以外にも商品開発やマーケティングなど、投資すべき優先順位が山程あります。 物流管理のAI化だけが全てではありません。 理由3:戦略的な「待ち」の姿勢 そして3つ目、ここが重要なんですが、「情報のアンテナは高く、財布の紐は固く」というスタンスです。 記事内でも指摘されていますが、技術の陳腐化が早い今、ユーザー側である荷主が無理に最先端の「出血を伴う導入(Bleeding edge)」をする必要はありません。 むしろ、そのリスクは物流会社に負ってもらい、荷主は物流会社が実装したAIサービスの恩恵を受ける形、つまり「アウトソーシング」という選択の方が、現時点では賢い選択だと言えます。 最先端導入はリスクが高い 実装リスクはLSP側が負う 荷主は成果を享受する立場に 今後の展望と対策 では、これを受けて今後業界はどうなっていくのか、私なりの推測をお話しします。 まず、「AIエージェントの実装」が物流会社の差別化要因になるでしょう。 単なるチャットボットではなく、複雑な貿易実務や手配を自律的に行うAIエージェントを使いこなせるフォワーダーや物流会社が生き残ります。 そして荷主側は、自社でシステムを構築するのではなく、「AI武装した優秀なパートナーを選ぶ」という選定眼がより重要になります。 「どのシステムを入れるか」ではなく、「どのフォワーダーを使えば、最新のAI恩恵を受けられるか」という視点にシフトしていくはずです。 もちろん、荷主も完全に無視していいわけではありません。 記事にもあるように、プロアクティブに情報は収集し、小規模なテスト導入は続けるべきです。 しかし、大規模な基幹システムの刷新などをAIベースで行うには、今はまだ技術の足場が動きすぎている、というのが現状のようです。 賢い荷主は、物流会社にその「実験」と「実装」の重荷を背負わせつつ、良いとこ取りをする。 そんなドライな戦略が、2026年のトレンドになるのではないでしょうか。 まとめ ・AIは急速進化中 ・荷主は焦らず戦略的に待つ ・AI実装済みLSPの選定が鍵

ハパックロイドがZIM買収へ。業界再編と黄金株の壁 | 物流ニュース・物流ラジオ

ハパックロイドがZIM買収へ。業界再編と黄金株の壁

本日は2月18日の海事新聞をもとに、ハパックロイドによるZIM買収合意の概要とそのスキーム、さらに業界再編への影響について整理します。 今回の案件は単なるM&Aではなく、世界コンテナ業界の勢力図を動かす再編劇であり、政治と安全保障が絡む極めて戦略的な取引です。 動画視聴はこちらから 42億ドルの強気な買収価格 ドイツの海運大手ハパックロイドはイスラエルのZIMを総額約42億ドルで買収することで合意し、1株当たり35ドルの現金で全株式を取得する計画を示しました。 この価格は直近株価に対して約58%、買収観測前の水準に対しては約126%ものプレミアムを乗せた水準であり、市場から見てもかなり強気な評価と言えます。 買収後のハパックロイドは約400隻規模の船隊と300万TEU超の船腹量を抱える巨大プレイヤーとなります。 業界ランキングへの影響 現在ハパックロイドは世界5位、日本のONEは6位に位置していますが、今回の統合によって両社の差は大きく広がる見通しです。 アルファライナーのデータによれば、統合後の規模は世界4位のCOSCOに迫る水準となり、ハパックロイドは5位の座をより強固なものにします。 船隊規模約400隻船腹量300万TEU超上位集中がさらに進行 コンテナ業界はすでに上位10社で世界船腹量の約85%を占めており、今回の統合はその寡占化傾向を一段と強める動きです。 黄金株という政治的ハードル ZIMにはイスラエル政府が保有する「黄金株」という特別な権利が存在し、これが外国企業による完全買収の障壁となってきました。 今回ハパックロイドは、事業分割というスキームを用いることでこの問題を乗り越えています。 具体的にはイスラエルの投資ファンドFIMIが新会社を設立し、国家戦略上重要とされる16隻と黄金株、そしてZIMブランドを引き継ぎます。 一方で、残りの商業的機能や大部分の船隊をハパックロイドが吸収する形となり、安全保障と経済合理性の両立を図る構造になっています。 国家安全保障を守りながら輸送力を獲得するというウルトラC的な解決策です。 今後の業界への波及 今回の統合により、荷主企業にとっては選択肢が一つ減ることを意味し、運賃交渉における船会社側のバーゲニングパワーが強まる可能性があります。 またハパックロイドはマースクと新たな協力体制を敷いており、そこにZIMのLNG燃料船やデジタル技術が加わることでサービス品質と効率性が向上する可能性もあります。 一方で規制当局の承認やイスラエル国内の政治的反発といった不確実性も残っており、発表価格と市場株価には乖離が見られます。 再編はさらに加速するか 90年代半ばには20社以上が主要航路で競っていましたが、現在は実質10社程度に集約されています。 今回の買収はその流れをさらに押し進めるものであり、ONEを含む他社の戦略にも影響を与える可能性があります。 コンテナ業界の再編は次の段階に入ったと言えるでしょう。

トランプ政権が海事再生へ。外国建造船課税で輸送コストはどう変わる | 物流ニュース・物流ラジオ

トランプ政権が海事再生へ。外国建造船課税で輸送コストはどう変わる

本日は、2026年2月13日付のJOCの記事をもとに、トランプ政権が発表した「アメリカ海事行動計画」と、それがグローバルサプライチェーンに与える影響について整理します。 今回の計画は単なる造船支援策ではなく、米国向け輸送コストの前提を根本から揺さぶる可能性を持つ政策であり、国際物流に携わる企業にとって見過ごせない動きとなっています。 動画視聴はこちらから 外国建造船への普遍的インフラ手数料 今回発表されたアメリカ海事行動計画の中心にあるのは、米国の港に入港するすべての外国建造商船に対し、積載貨物の重量に応じた「インフラ・安全保障手数料」を課すという構想です。 具体的な料率はまだ提案段階にありますが、キログラム当たり1セントであれば10年間で約660億ドル、25セントであれば1.5兆ドル規模に達する可能性があると試算されており、そのインパクトは極めて大きいものとなります。 徴収された資金は新設される海事安全保障信託基金に組み込まれ、米国国内の造船能力の再建や米国船籍商船隊の拡充に充てられる計画です。 海だけでなく陸路にも広がる構想 この政策は海上輸送だけにとどまらず、メキシコやカナダなど陸上国境を経由する輸入品にも商品価値の0.125%を課す「陸上港湾維持税」の導入を含んでおり、既存の港湾維持税を陸上輸送に拡張する内容となっています。 つまり海と陸の双方から米国市場へのアクセスコストを引き上げ、その財源を国内産業振興に回すという構造です。 背景にある造船能力の低下と安全保障懸念 現在米国で400フィート以上の大型船を建造できる造船所はわずか8か所に限られており、長年にわたり日本や韓国、中国といったアジア勢とのコスト競争に押されて商船建造能力が大きく低下してきました。 トランプ政権はこの状況を国家安全保障上の戦略的弱点と位置付け、有事の際に自国で商船を確保できないリスクを是正する必要があると主張しています。 輸送コスト上昇と市場への波及 仮にこの重量ベースの課税が実行されれば、船会社は増加分をサーチャージとして荷主に転嫁せざるを得ず、最終的には輸入品価格に反映される可能性が高まります。 特に低単価で重量のある貨物は影響を受けやすく、建材や原材料、農産物などはコスト増の直撃を受けることが想定されます。 建材原材料農産物 その結果、米国内のインフレ圧力が再び強まる懸念も否定できません。 この政策は事実上の関税障壁と受け止められる可能性があり、WTOルールとの整合性や各国の報復措置も今後の論点となります。 議会承認と今後の不確実性 本計画の実行には議会の承認が必要であり、小売業界や製造業界からの強い反発も予想されるため、最終的な料率や適用範囲が修正される可能性も残されています。 とはいえ、米国向け輸送コスト構造が変化するリスクは現実味を帯びており、重量物を輸出している企業にとっては調達戦略や価格戦略を再点検する局面に入ったと言えるでしょう。

CLO元年が始動。物流統括管理者義務化で何が変わるのか | 物流ニュース・物流ラジオ

CLO元年が始動。物流統括管理者義務化で何が変わるのか

本日は、2月12日に東京ビッグサイトで開幕したロジスティクスソリューションフェア2026を起点に、いよいよ4月に迫ったCLO選任義務化が企業経営に与える影響について整理します。 今回のテーマは展示会のレポートにとどまらず、日本の物流が経営レベルで再設計される転換点に差しかかっていることを示しています。 動画視聴はこちらから LSF2026とCLO元年 LSF2026では「CLO元年」というキーワードが強く掲げられ、改正物流関連法の施行によって特定事業者に物流統括管理者の選任が義務化されるという現実を、改めて業界全体に印象づける場となりました。 制度開始まで残り2か月を切ったこのタイミングでの開催は象徴的であり、多くの企業が自社の対応状況を再確認する契機になっています。 ハードからソフトへの転換 JILSは秋の国際物流総合展をマテハンやロボットなどのハード中心の展示会と位置付ける一方で、今回のLSFを運用設計やマネジメントといったソフト中心の展示会と明確に分けています。 この対比が示すのは、単に設備を導入する段階から、そのリソースをどう活用し、経営戦略の中に組み込むかというフェーズへ物流が移行しているという事実です。 物流は現場改善のテーマから企業価値を左右する経営課題へと進化しています。 想定を上回る対象企業 政府はCLO選任義務の対象を約3200社と想定していましたが、JILSの推計では最大3600社に達する可能性があり、想定以上に広範な企業が対応を迫られることになります。 しかし実態としては、「自社は本当に対象なのか」「CLOは何を担うべきなのか」という疑問を抱えたまま、手探りCLOの状態で制度開始を迎えようとしている企業も少なくありません。 発荷主と着荷主の責任 2024年問題以降もトラックドライバー不足は構造的に続いており、これまでは運賃引き上げやリードタイム延長といった対症療法で対応してきましたが、2026年4月以降はそれを法的義務として経営管理の枠組みに組み込む必要があります。 特に重要なのは発荷主だけでなく着荷主にも責任が求められる点であり、過度な納品指定や細分化された発注ロットの見直しなど、サプライチェーン全体を俯瞰した調整が不可欠になります。 個社最適から全体最適への転換共同配送やデータ共有の推進KPI管理による実効性の担保 2026年は物流格差の分岐点 LSFのセミナーでもフィジカルインターネットや積載率向上といったテーマが議論されましたが、積載率50%以上や荷待ち時間2時間以内という目標は単独企業の努力だけでは達成困難であり、企業間連携を前提とした枠組みが求められます。 CLOは社内の調整役であると同時に、他社との対話を進める外交官としての役割も担います。 2026年は、CLO制度を形式的なコンプライアンス対応にとどめる企業と、物流を経営戦略として再構築する企業との間で明確な差が生まれ始める年になるでしょう。 制度開始はゴールではなく、日本の物流が協調領域へと本格的に踏み出すスタートラインであり、まずは自社の物流データを可視化し、現状を客観的に把握することが第一歩となります。

LNG船建造能力が絶滅。オールジャパン再生は可能か | 物流ニュース・物流ラジオ

LNG船建造能力が絶滅。オールジャパン再生は可能か

本日は、2月12日付の日経新聞の記事をもとに、日本のエネルギー安全保障と造船業が直面している危機、そしてLNG運搬船建造能力復活の動きについて整理します。 この問題は造船業だけの話ではなく、日本の電力供給の根幹に関わる重大テーマです。 動画視聴はこちらから LNG運搬船の「絶滅」とは何か 記事タイトルにもある「絶滅」という言葉は、日本国内でLNG運搬船を新規建造する能力が事実上失われている現状を指しています。 国内での新規建造実績は2019年が最後で、それ以降は一隻も建造されていません。 問題は単なるドック不足ではありません。 特殊タンクやエンジン、部品メーカーまで含めたサプライチェーンそのものが壊滅し、ノウハウが途切れている状態です。 なぜ今復活が必要なのか 背景にはエネルギー需要の急増と地政学リスクがあります。 政府試算では2034年度の電力需要は約8524億キロワット時に達する見込み。 再生可能エネルギーや原子力の遅れもあり、現実的には天然ガス火力への依存が続く構造になっています。 日本は天然ガスの98%を輸入に頼っており、すべてを船で輸送している現実があります。 海外依存のリスク 現在、日本の船主からの発注は中国や韓国の造船所に集中しており、中国向け発注は全体の3〜4割に達しています。 有事の際に海外建造船の引き渡しや整備が止まれば電力供給は揺らぐというリスクがあります。 再生ロードマップの現実 政府は2025年12月に策定した造船再生ロードマップに基づき、3500億円規模の支援を打ち出しました。 2035年までに国内建造量を倍増させる目標を掲げ、2026年春頃にはLNG船復活の結論が出る見込みです。 しかし一度失われた技術と供給網を復活させるには大きなコストが伴います。 コストを誰が負担するのか 韓国や中国は建造量を背景に強いコスト競争力を持っています。 日本で再建する場合、船価は当然上昇します。 電力会社ガス会社政府支援 このコスト増を誰が負担するのかが最大の論点です。 経済合理性だけでなくエネルギー安全保障という観点で国内回帰が進む可能性があります。 LNG船建造能力の再生は、造船業の問題ではなく、日本の電力を守るための分岐点と言えるでしょう。

EUが狙い撃ち。中国EC規制強化で航空貨物は転換点へ | 物流ニュース・物流ラジオ

EUが狙い撃ち。中国EC規制強化で航空貨物は転換点へ

本日は、2月6日付のJournal of Commerceの記事をもとに、EUで進む中国系ECプラットフォーム規制と国際物流への影響について整理します。 一見するとポーランド国内の話題に見えますが、実際にはEU全体、そして航空貨物市場に直結する重要な動きです。 動画視聴はこちらから ポーランド発の問題がEU全体へ波及 今回の問題提起を行ったのは、ポーランドのデジタル経済商工会議所です。 同会議所はKPMGと共同で作成したレポートの中で、中国のオンラインプラットフォームがEU市場の競争を歪めていると警告しました。 問題とされているのは、単なる価格競争ではありません。 税関制度や規制の抜け穴を前提としたビジネスモデルそのものが問題視されています。 「不公平なルール」への強い警告 同会議所の会長は、今回の問題は保護貿易主義の議論ではないと明言しています。 ポーランド企業は価格やサービスで競争しているものの、規制の抜け穴や法執行の不備を前提としたビジネスモデルとは戦えないと強く批判しました。 EU市場に広がる中国ECの存在感 ポーランドのEコマース市場は約420億ドル規模です。 そのうち、すでに6%から11%を中国系プラットフォームが占めているとされています。 特に影響が大きい分野は次のとおりです。 家電製品家庭用品 これらの分野では、極端な低価格販売が国内産業の空洞化を招くリスクが指摘されています。 EUでも進む免税措置の撤廃 アメリカではすでに低価格商品に対する免税措置、いわゆるデミニミスが撤廃されました。 同様の動きはEUでも進んでいます。 欧州委員会は、中国からのEコマース輸入急増を背景に、150ユーロ以下の商品に対する免税措置を撤廃する方針を示しました。 今後のスケジュールは次のとおりです。 2026年7月 一時的な関税措置開始予定2028年 本格的な制度改革 2024年だけで、150ユーロ以下の小包は46億個がEU域内に流入しました。 航空貨物市場への影響 運賃分析プラットフォームのデータによると、アメリカで免税措置が撤廃されて以降、中国発アメリカ向けEコマース貨物は急減しています。 2025年12月には3か月連続で50%以上減少し、年間でも28%のマイナスとなりました。 ヨーロッパ向けでも同様の傾向が見られています。 中国発欧州向けEコマース物量は、ロシア向けを除くと実質23%減少しています。 航空貨物は転換点を迎える 世界の航空貨物量の最大25%がEコマースに依存していると言われています。 この需要がフラット化または減少すれば、これまで前提とされてきた成長戦略は見直しを迫られるでしょう。 旅客機の貨物機転換やEC需要前提のキャパシティ拡大といった戦略が再検証される局面に入ります。 EUでの規制強化が本格化する2026年半ばは、航空貨物市場にとって大きな分岐点になりそうです。

マースクはなぜ海運以外で稼ぐのか。L&Sとターミナルで挑む多角化戦略と2026年問題 | 物流ニュース・物流ラジオ

マースクはなぜ海運以外で稼ぐのか。L&Sとターミナルで挑む多角化戦略と2026年問題

本日は、海運大手マースクの最新の経営戦略、特に「事業の多角化による安定成長」について解説していきます。 参照するのは、海事プレスおよび日本海事新聞に掲載されたマースクの2025年通期決算と中期戦略に関する報道です。 加えて、海運市況データを踏まえ、なぜ今マースクが「海運以外」に注力しているのか、その背景と今後を整理します。 動画視聴はこちらから マースク決算の全体像とL&S事業 マースクは2016年以降、単なるコンテナ船社から「コンテナ物流のインテグレーター」

日本郵船、通期経常1,950億円へ上方修正。自動車船が支える一方、物流事業は減速 | 物流ニュース・物流ラジオ

日本郵船、通期経常1,950億円へ上方修正。自動車船が支える一方、物流事業は減速

本日は、2月5日付の海事新聞に掲載された「日本郵船、通期経常1,950億円。上方修正、自動車堅調・入港料延期」および「郵船・物流事業、通期経常予想を下方修正」という2本の記事をもとに、日本郵船の2026年3月期の最新業績見通しと、そこから見えてくる海運・物流市況の現状について解説します。 大手海運3社の決算が出揃う中で、今回は特に自動車船事業と物流事業の明暗に焦点を当てて見ていきます。 動画視聴はこちらから 日本郵船の業績修正の概要 日本郵船は2月4日、2026年3月期の連結業績予想を修正し、経常利益を前回11月予想から50億円引き上げ、1,950億円とする上方修正を発表しました。 前期比では約60%の減益となりますが、直近予想からは上振れした形です。 一方、当期純利益は2,100億円で据え置きとなりました。 これは、船舶売却益の計上時期を後ろ倒ししたことなどにより、特別利益の見通しを見直したためです。 追い風となった自動車船事業 今回の上方修正の最大の要因は、自動車船事業の好調です。 PCTC(自動車専用船)部門の通期経常利益予想は、前回から100億円引き上げられ、980億円となりました。 要因は大きく二つあります。 自動車輸送需要が堅調に推移したこと 米国で予定されていた追加入港料の徴収が延期されたこと 輸送台数は前回予想から4万台増え、通期で444万台を見込んでいます。 特に注目すべきは、米国の追加入港料問題です。 USTR(米通商代表部)は、米国建造以外の自動車船に対して追加の入港料を課す方針を示していましたが、その開始時期が1年延期、あるいは徴収期間が短縮されました。 これにより、日本郵船が想定していたコスト負担が軽減され、利益を押し上げる結果となりました。 向かい風を受けた物流事業 一方で、物流事業は厳しい状況が続いています。 こちらは40億円の下方修正となり、通期の経常利益予想は80億円に引き下げられました。 郵船ロジスティクスを中心とする物流事業では、2025年10〜12月期にかけて、海上貨物運賃が想定以上に軟化したことが直撃しました。 さらに、米国の関税政策の影響により、消費財を中心とした荷動きが鈍化し、主要顧客の取扱量が減少したことも収益を圧迫しています。 他社比較で見える市況の実態 今回の発表により、日本の大手海運3社の業績見通しが出揃いました。 商船三井も先日、経常利益を280億円上方修正しています。 全体を俯瞰すると、円安効果と実需のばらつきが鮮明です。 下期の為替前提は1ドル147円から154.1円へと大きく円安に振れており、ドル建て収入の多い海運各社にとっては追い風となっています。 しかし為替効果を除いて見ると、自動車船は強く、フォワーディングを含む物流事業は弱いという構図がはっきりしています。 自動車船:需給タイト継続 物流事業:運賃下落と荷動き減速 地政学リスクと今後の注目点 地政学リスクについても確認しておきましょう。 日本郵船は、スエズ運河の航行について「年度末までは再開しない」という前提を維持しています。 紅海情勢は依然として不透明で、喜望峰回りの長距離航路が続く見通しです。 これは船腹需給を引き締め、運賃の下支え要因にはなっていますが、物流事業の収益を押し上げるほどの市況回復には至っていません。 今後の最大の変数は、やはり米国の通商・関税政策です。 自動車船は入港料延期で助かりましたが、物流事業は関税の影響を直接受けています。 2026年度に向けて、米国の政策動向が海運・物流全体にどのような影響を及ぼすのか、引き続き注視が必要でしょう。

自動車船の需給はなぜ緩まないのか。輸出入ギャップ拡大が生む構造問題 | 物流ニュース・物流ラジオ

自動車船の需給はなぜ緩まないのか。輸出入ギャップ拡大が生む構造問題

本日は2月3日の海事新聞「自動車船、輸出入ギャップ拡大。需給タイト 継続か」という記事と、1月20日に行われた日本郵船のIR説明会での発表内容をもとに、海運市況の中でも特に自動車船(PCTC)の最新動向について整理していきます。 ここ数年、自動車船のスペース不足、いわゆる「スペース・タイト」の状況が続いていますが、2026年に入った現在も、この問題は簡単には解消しない可能性が高まっています。 動画視聴はこちらから 自動車船市況の現状整理 まず、現在の市況について整理します。 日本郵船の調査グループによる分析では、自動車や建設機械を運ぶ自動車船の需給は、引き続き引き締まった状態が続くと予測されています。 もともと市場では、2024年から2025年にかけて新造船の竣工が相次ぐことで、2026年には需給が緩和し、スペースが取りやすくなると見られていました。 実際に2025年時点では、世界の自動車船の船腹量は約900隻規模まで増加しています。 しかし、実態としては、船の数が増えているにもかかわらず、需給は緩んでいません。 その背景には、単なる船腹量の増減では説明できない、構造的な要因が存在しています。 原因① 輸出入アンバランスの急拡大 最も重要な要因の一つが、アジア地域における輸出入アンバランスの拡大です。 日本郵船の説明によると、従来、日本・韓国・中国といった東アジア地域では、自動車の輸出量は輸入量の3倍から4倍程度でした。 それでも輸出超過ではありましたが、市場としては一定のバランスが保たれていました。 ところが、中国からの自動車輸出が急拡大したことで、2025年にはこの比率が5倍超にまで広がったと見られています。 物流の世界では、片道だけ貨物を積み、復路が空船となる「片荷」は、最も効率の悪い状態です。 輸出が輸入の5倍という状況は、多くの船がアジアへ空船で戻らざるを得ないことを意味します。 その結果、船全体の稼働効率が大きく低下し、名目上の船腹量以上に実質的な輸送能力が削られているのです。 原因② 輸送距離の長距離化 二つ目の要因は、輸送距離の長距離化です。 中国からの自動車輸出は、アジア近隣国にとどまらず、欧州や中南米といった遠隔地へ広がっています。 さらに、2024年以降続いている紅海情勢の緊迫化により、スエズ運河を回避し、喜望峰経由で航行するケースが常態化しています。 記事によると、喜望峰回りによる距離増は6〜7%程度とされていますが、もともと中国から欧州への航路自体が長距離であるため、1隻あたりの船の拘束時間は確実に伸びています。 結果として、船は増えているものの、市場に供給される実質的なスペースは思うように増えない状況が続いています。 原因③ 老齢船比率の上昇 三つ目の要因が、自動車船の老齢化です。 現在、世界の自動車船の平均船齢は15年超と、過去最高水準に達しています。 特に船齢16年以上の船が、全体の約6割を占めている点は見逃せません。 仮に新造船の竣工が進んだとしても、老齢船がスクラップされることで供給増が相殺され、需給が大きく緩和しにくい構造になっています。 これは、将来的にもスペース不足が解消しにくい要因の一つと言えます。 別ソースから見る中国輸出の圧力 ここで、別のソースからの情報も補足します。 中国自動車工業協会などのデータによると、中国の自動車輸出台数は2023年以降、世界トップクラスとなり、2025年には700万台超に達しています。 BYDをはじめとする中国EVメーカーは、自社で自動車船を保有・運航する動きを加速させていますが、それでも生産過剰による押し出し輸出の勢いは収まっていません。 また、欧州や米国による中国製EVへの追加関税は、短期的には駆け込み輸出を誘発する側面もあり、荷動きを底支えしています。 今後の見通しと物流実務への影響 今後についてですが、結論として、自動車船市場は当面、荷主にとって厳しい売り手市場が続く可能性が高いと考えられます。 緩和要因として挙げられるスエズ運河の本格再開や、欧米での現地生産シフトは、即効性のある解決策にはなりにくいでしょう。 中国国内の過剰生産が続く限り、輸出圧力は継続するからです。 仮にスペースが増えた場合でも、これまでコンテナ船で輸送されていた完成車が自動車船へ戻る回帰需要が発生するため、需給が一気に緩む可能性は低いと見られます。 自動車産業のサプライチェーンにおいては、部材調達だけでなく、完成車を運ぶ物流キャパシティそのものが制約要因になっている点を、改めて認識する必要があります。 中古車輸出を手がける企業にとっても、船枠確保が成長のボトルネックとなる状況は、2026年も続くと考えておくべきでしょう。