投稿日:2026.05.08 最終更新日:2026.05.08
ホルムズ海峡危機|米軍護衛作戦が48時間で停止した理由
2026年5月、世界の原油輸送の約2割が通過するホルムズ海峡が、地政学リスクの最前線となっている。米軍が商船護衛作戦を開始してわずか48時間で停止。イランは新たな通航管理機関を設立して通航料の徴収を始め、その間にタンカーやコンテナ船が次々と攻撃を受けるという、前例のない混迷が続いている。本稿では、この急激な情勢変化が日本の物流・貿易現場に何をもたらすのか、時系列に沿って整理する。
飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)
2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!
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48時間で停止した米軍護衛作戦「プロジェクト・フリーダム」
トランプ大統領は2026年5月3日、米艦艇がホルムズ海峡通航船を護衛する作戦「プロジェクト・フリーダム」の開始を発表。翌5月4日の現地時間朝に作戦が始まった。イランによる実質的な通航制限に対し、米国が軍事力で航行の自由を保証しようとする試みだった。
しかし約2日後の5月6日、トランプ大統領は「イランとの間で合意に向けた大きな進展があった」として計画を短期間停止すると発表し、合意の最終決定を注視するとした。
この急展開に、国際海運業界はすぐに反応した。国際海運団体BIMCOのヤコブ・ラーセン最高安全責任者は停止直後に声明を発表し、「開始直後の停止に驚いた」 と表明。あわせて「イランとの調整なしの通航には大きなリスクが伴う」と強く警告している。
> 作戦の開始・停止があまりにも唐突で、船主・船社が対応を組み立てようにも判断基準が次々と変わってしまう。これが現場にとって最も困難な状況だ。

イラン「ペルシャ湾海峡局」の設立と船主が直面するジレンマ
米国の計画停止発表直前の5月5日、イラン国営メディアは新機関「ペルシャ湾海峡局」の設立を報じた。この機関を通じ、船主はメールでイラン革命防衛隊に連絡し、航行許可の手続きを行えるとされている。事実上、イランがホルムズ海峡の通航を管理し、通航料を徴収する体制が整った形だ。
この新機関の設立により、船主は以下の深刻なジレンマに直面している。
- 通航料を支払う場合:米国の制裁対象となるリスクがある
- 支払わない場合:イランによる通航妨害・拿捕のリスクがある
どちらを選んでも大きなリスクが伴うこの構造は、荷主にとっても「どちらが安全か」ではなく「どちらのリスクを取るか」という判断を迫るものだ。代替ルートの検討とリスク説明を並行して進めることが、フォワーダー・荷主双方に求められている。

相次ぐ実力行使と船舶への攻撃
情勢の悪化は外交・制度面にとどまらない。軍事的な実力行使と商船への攻撃が相次いで報告されている。
米軍によるイラン船籍VLCCの無力化
米中央軍は5月7日未明、イラン船籍のVLCC(大型原油タンカー)「Hasna」を航行不能にしたと発表した。オマーン湾をイランの港へ向けて航行中だった同船に対し、空母から機関砲を数発放ち舵を破壊。「封鎖措置への違反を複数回警告したが従わなかった」としており、中央軍は「封鎖措置は引き続き完全に有効」と改めて強調した。
UAEタンカーへのドローン攻撃
UAE外務省は5月3日、国営石油会社ADNOC関連のタンカーがイランのドローンにより攻撃を受けたと発表した。ADNOCはUAE最大の国営エネルギー企業であり、産油国の船舶そのものが標的になりうることを示した点で国際社会に強い衝撃を与えた。
CMA CGMコンテナ船への攻撃・乗組員負傷
フランス大手船社CMA CGMは、コンテナ船「CMA CGM SAN ANTONIO」がホルムズ海峡航行中に攻撃を受けたことを公表した。乗組員数人が負傷し、船体にも損傷が生じている。タンカーだけでなく、コンテナ船・一般貨物の輸送にも直接リスクが及んでいることが明確になった。
HMMコンテナ船で爆発・航行不能に
5月4日には、韓国船社HMM運航のコンテナ船「HMM NAMU」の機関室でも爆発が発生。鎮火したものの船は航行不能の状態となった。韓国籍船員6人を含む乗員24名全員の無事は確認されており、外部からの攻撃を受けた可能性が高いとして詳細が調査中だ。

日本の物流・貿易現場への影響
ホルムズ海峡は日本が輸入する原油の約9割が通過する「エネルギーの生命線」だ。この事態が長期化した場合、以下の影響が複合的に発生する可能性がある。
| 影響領域 | 想定されるリスク |
|—|—|
| エネルギーコスト | 原油・LNGの調達コスト上昇 |
| リードタイム | 迂回航路によるリードタイム延長 |
| 保険 | 海上保険料(戦争リスク特約)の急騰 |
| 運賃・スペース | スペース逼迫と運賃の乱高下 |
CMA CGMのような大手船社の船舶が実際に攻撃を受けているという事実は、「我々の荷物は大丈夫か」という荷主からの問い合わせが増加することを意味する。今のうちに保険条件と船社の運航方針を確認しておくことが不可欠だ。

今すぐ取るべき3つの行動
複数の軍事的事案と制度的な管理体制の変化が同時進行するホルムズ海峡情勢は、2024年の紅海フーシ派問題と同様に「いつ正常化するか」を前提とした対応計画が機能しにくい局面だ。正常化の時期を見通すよりも、現状を前提としたリスク対応を優先すべきである。
現時点で取るべき行動を以下の3点に整理する。
1. 船社の運航方針と代替ルートの確認:現在使用中の船社がどのような対応方針をとっているか、代替航路の選択肢を含めて把握する
2. 保険条件・戦争リスク特約の見直し:特にホルムズ海峡・ペルシャ湾域を対象とした戦争リスク条項の内容と保険料水準を確認する
3. 見積りの有効期限と運賃変動条項の再確認:情勢急変時のサーチャージ発動条件を把握し、顧客との契約条件を整理しておく
ホルムズ海峡をはじめとする中東情勢に起因するリスク対応、代替ルートの手配、保険条件の整理など、貿易・物流に関わるご相談は HPS CONNECT までお気軽にお問い合わせください。複雑化するサプライチェーンリスクに対して、実務に即したご支援をいたします。
