投稿日:2026.05.11 最終更新日:2026.05.11
アマゾンが3PL参入|物流版AWSのASCSとは
2025年5月、アマゾンが自社の物流ネットワークを外部企業に開放する新サービス「Amazon Supply Chain Services(ASCS)」を発表した。これは単なる新機能の追加ではなく、フォワーダーや既存の3PL企業が長年担ってきた市場に、アマゾンが正面から参入することを意味する。AWSがITインフラを外販してクラウド市場を制したように、アマゾンが物流インフラの外販によって業界の構造を塗り替えようとしている。本稿では、ASCSの概要・サービス内容・競合への影響・日本の物流業界への示唆を整理する。

飯野 慎哉(株式会社HPS CONNECT 代表取締役社長)
2016年にHPS Trade Co., Ltdを設立し、経営者として企業の物流課題を解決。 自身の経験を基に物流ノウハウを発信するYouTubeチャンネル「イーノさん」は登録者11万人を突破。 セミナーや講演、ブログを通して物流情報やグローバルでの仕事・挑戦・苦悩を発信。アジア・東南アジアに事業拡大中!
ASCSとは何か|アマゾンが打ち出した物流の外販サービス
2026年5月4日、アマゾンは「Amazon Supply Chain Services(ASCS)」の開始を正式に発表した。同サービスは、アマゾンが自社EC事業を支えるために構築してきた物流ネットワーク——貨物輸送・在庫保管・フルフィルメント・小口輸送——を一体として外部企業に提供するものだ。
最大のポイントは、対象がアマゾンのマーケットプレイス出品者に限らない点である。小売・製造・ヘルスケア・自動車など、あらゆる業種・規模の企業がASCSを利用できる。アマゾンが本格的な第三者向け物流サービス、すなわち3PL事業に参入したことを意味する。
ASCS担当のピーター・ラーセン・バイスプレジデントは次のように明言している。「クラウドコンピューティング分野でAWSが行ってきたように、数十年にわたって実証してきたサプライチェーンサービスのインフラ・知見・規模を世界中の企業に提供していく」。AWSとまったく同じ発想——自社事業のために構築したインフラを外販し、新たな市場を創る——を物流で再現しようとしている。
圧倒的な実績基盤|過去3年で数億個の配送実績
ASCSは突然始まったサービスではない。アマゾンはすでに過去3年間で、数十万の出品者向けに数億個の貨物輸送・保管・配送を手掛けてきた実績を持つ。この巨大なオペレーションをそのまま外部企業向けに開放するのがASCSである。
サービスの対象範囲も大幅に拡大された。
- 自社ECサイト経由の注文
- 他のECマーケットプレイス(Amazon以外を含む)
- SNS経由の販売
- 実店舗向けの補充
複数の販売チャネルを持つ企業の物流を、アマゾンのネットワーク一本で一括して引き受ける体制が整った。すでにP&G・3M・ランズエンド・アメリカンイーグルといった大手企業が先行導入しており、製造業から小売業まで幅広い業種で実用化が進んでいる。

サービスの3本柱|貨物輸送・フルフィルメント・小口輸送
ASCSは以下の3分野で構成されている。
1. 貨物輸送(Freight)
鉄道を含む陸・海・空のすべての輸送モードをカバーする。アマゾンが保有・活用する8万台以上のトレーラー・2万4,000基以上のコンテナ・100機以上の航空機のネットワークにアクセスできる。通関手続きの簡素化・輸送可視化・時間厳守輸送といった付加価値オプションも提供される。
2. 配送・フルフィルメント(Distribution and Fulfilment)
- 海外からの輸入在庫の保管
- 需要地に近接した在庫配置
- 複数販売チャネルへの出荷を単一ネットワークで対応
- AIを活用した需要予測と在庫配置最適化
複数販路で在庫を分断して持つことによる欠品・過剰在庫のリスクを、アマゾンのネットワークに一元化することで解消できる点が大きな訴求力となる。
3. 小口輸送(Parcel Shipping)
- 2〜5日の配送リードタイム・週7日配送
- 集荷・持ち込みの両対応
- ラベル作成から配達完了までの追跡機能・配送完了時の写真証跡
アマゾンプライムで培った配送品質を、自社ECや他のチャネルにも適用できることになる。

荷主企業へのメリットとリスク|一元管理の恩恵と依存リスクの両面
荷主企業の視点から、ASCSのメリットとリスクを整理する。
メリット
– 複数の販売チャネルをまたいだ在庫・物流の一元管理
– AIによる需要予測で在庫精度が向上
– アマゾンの圧倒的な配送ネットワークへのアクセス
– これまで複数の3PL・キャリアと個別に締結していた契約を一本化できる
リスク
– アマゾンへの依存度が高まるほど、料金改定・条件変更への交渉力が低下する
– 独自の物流ノウハウが社内に蓄積されにくくなる
– AWSと同様、「依存しすぎた」という問題が物流領域でも表面化する可能性がある
ASCSを活用しながらも、依存リスクをコントロールするバランス設計が荷主企業には求められる。
日本の物流業界への示唆|フォワーダー・3PLはどう対応するか
AWSが登場した当初、多くのIT企業は「自社のインフラが不要になる」とは想定していなかった。しかし現在、AWSは世界最大のクラウドサービスとして確固たる地位を持つ。ASCSはその物流版として、業界の構造的変化の起点となりうる。

既存の3PL企業やフォワーダーにとって重要なのは、アマゾンと正面から戦うのではなく、アマゾンが対応しにくい領域で差別化を図ることだ。
- 国際輸送・通関・規制対応などの専門性が求められる業務
- 危険物・冷蔵冷凍・特殊貨物など対応難易度の高い品目
- BtoBの複雑なサプライチェーンにおける細やかなコンサルティング
アマゾンが得意とするのは主にBtoCの大量処理型物流だ。専門性・柔軟性・顧客への密着度が問われる領域では、フォワーダーや専門3PLの強みがまだ十分に活きる。どこで差別化するかを今から明確にしておくことが、生き残りへの鍵となる。
ASCSの登場は、物流業界が「インフラのコモディティ化」という新たな局面に入ったことを示している。荷主企業にとっては利便性が高まる一方、物流事業者にとっては専門性の再定義が急務だ。貴社のサプライチェーン戦略や物流パートナー選定についてお悩みの方は、ぜひHPS CONNECTにご相談ください。国際輸送・通関・3PL選定など、貴社の課題に合わせた最適な解決策をご提案します。
